これまで“1品もの”が当たり前だった人工衛星の開発に、量産化の波が押し寄せている。日本では、今後急増することが予想されるコンステレーション(多数の衛星を協調動作させる運用方式、またはそれを構成する衛星群)に向けて衛星バスを汎用化したり、基幹部品を新規開発して製造の競争力を確保する動きが活発化している。
小型衛星コンステレーションの国際競争力強化に向けたもう1つの要素技術が、衛星用の部品・コンポーネントである。1品ものの大型衛星と比べ、小型衛星では低コスト・短納期の量産品が求められるが、現状、その選択肢は多くない。特に基幹部品の多くが海外製で、煩雑な輸入手続きによって納期が長くなったり、価格が押し上げられたりすることが、国内の衛星開発事業者の悩みの種になっている。そこで、経産省は衛星の基幹部品を開発する国内事業者を支援する取り組みを進めている注1)。
その内の1社が、光学システム技術に強みを持つジェネシアだ。同社は東京工業大学、東北大学と共同で、衛星の姿勢制御の中核部品であるスタートラッカー(恒星センサー)を開発した(図1)。
スタートラッカーは光学カメラで宇宙空間を撮影し、その視野内の恒星の位置から、衛星が向いている方向を推定するセンサーだ。ジェネシアらが開発したのは、方向の決定性能でエラー発生率が1000回に3回、さらに「太陽回避角」で世界最高峰の性能を持つ製品だ。太陽回避角は、どのくらい太陽光線から角度をそらすと光にじゃまされずに計測できるかという指標で、開発品は30度より小さいとしている。レンズフードに刻むひだの工夫による。「太陽がまぶしいせいで衛星が正しく姿勢を決定できないことも多い。太陽回避角は衛星の運用時間、つまりコストに影響を与える重要なファクターだ」(ジェネシア代表取締役の武山芸英氏)とする。開発したセンサーは東工大が開発した50kg級衛星「ひばり」「うみつばめ」に搭載され、打ち上げられる予定だ注2)。
スタートラッカーの価格の相場は1500万~2000万円と高いが、ジェネシアは相場より2~3割安く提供できるとしている。武山氏は、「国産の200kg以下の衛星向けで7割のシェアを取りたい」と意気込む。
27年には世界で新規に打ち上げられる小型衛星でのシェアで10%を目指す─。こうした大きな目標を掲げて宇宙ビジネスに参入したのが、モーター技術に強みを持つシナノケンシである。同社が開発するのは、衛星の姿勢制御に用いる「リアクションホイール」という部品で、アクセルスペースと共同開発している(図2)。リアクションホイールは、主にフライホイール、電動モーター、制御基板で構成され、フライホイールの回転数変動に伴う反作用で衛星にトルクを与えて姿勢を制御する。通常、1基当たり3~4個搭載される。
シナノケンシが目指すのは、モーター制御により低振動で安定動作を維持する製品だ。例えば、光学観測衛星では数百km上空から撮影するため、振動が起きると解像度に悪影響を与える。価格は海外の競合製品より2~3割安く、納期は半分を目標にしている。22年度内に開発を終え、23年度に100kg級衛星に搭載して打ち上げ実証を行う予定だ。