全3570文字
PR

これまで“1品もの”が当たり前だった人工衛星の開発に、量産化の波が押し寄せている。日本では、今後急増することが予想されるコンステレーション(多数の衛星を協調動作させる運用方式、またはそれを構成する衛星群)に向けて衛星バスを汎用化したり、基幹部品を新規開発して製造の競争力を確保する動きが活発化している。

 小型衛星コンステレーションの国際競争力強化に向けたもう1つの要素技術が、衛星用の部品・コンポーネントである。1品ものの大型衛星と比べ、小型衛星では低コスト・短納期の量産品が求められるが、現状、その選択肢は多くない。特に基幹部品の多くが海外製で、煩雑な輸入手続きによって納期が長くなったり、価格が押し上げられたりすることが、国内の衛星開発事業者の悩みの種になっている。そこで、経産省は衛星の基幹部品を開発する国内事業者を支援する取り組みを進めている注1)

注1)シナノケンシは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の2020年度「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業」に採択。ジェネシアは経産省の令和2年度補正宇宙開発利用推進研究開発(小型衛星コンステレーション関連要素技術開発(軌道・姿勢制御技術))に採択。

 その内の1社が、光学システム技術に強みを持つジェネシアだ。同社は東京工業大学、東北大学と共同で、衛星の姿勢制御の中核部品であるスタートラッカー(恒星センサー)を開発した(図1)。

図1 世界最高レベルの性能を持つ小型衛星用のスタートラッカー
図1 世界最高レベルの性能を持つ小型衛星用のスタートラッカー
光学システム技術に強みを持つベンチャー企業のジェネシアと東京工業大学、東北大学が共同開発したスタートラッカー。寸法は74mm×65.5mm×143.6mmで重さは460g。100kg級からCubeSatにまで搭載可能という。(写真:ジェネシア)
[画像のクリックで拡大表示]

 スタートラッカーは光学カメラで宇宙空間を撮影し、その視野内の恒星の位置から、衛星が向いている方向を推定するセンサーだ。ジェネシアらが開発したのは、方向の決定性能でエラー発生率が1000回に3回、さらに「太陽回避角」で世界最高峰の性能を持つ製品だ。太陽回避角は、どのくらい太陽光線から角度をそらすと光にじゃまされずに計測できるかという指標で、開発品は30度より小さいとしている。レンズフードに刻むひだの工夫による。「太陽がまぶしいせいで衛星が正しく姿勢を決定できないことも多い。太陽回避角は衛星の運用時間、つまりコストに影響を与える重要なファクターだ」(ジェネシア代表取締役の武山芸英氏)とする。開発したセンサーは東工大が開発した50kg級衛星「ひばり」「うみつばめ」に搭載され、打ち上げられる予定だ注2)

注2)可変形状姿勢制御実証衛星「ひばり」は、JAXAのイプシロンロケット5号機に搭載されて21年10月7日に打ち上げられる予定。紫外線天文学・陸・海観測超小型衛星の「うみつばめ」は22年に打ち上げ予定。

 スタートラッカーの価格の相場は1500万~2000万円と高いが、ジェネシアは相場より2~3割安く提供できるとしている。武山氏は、「国産の200kg以下の衛星向けで7割のシェアを取りたい」と意気込む。

 27年には世界で新規に打ち上げられる小型衛星でのシェアで10%を目指す。こうした大きな目標を掲げて宇宙ビジネスに参入したのが、モーター技術に強みを持つシナノケンシである。同社が開発するのは、衛星の姿勢制御に用いる「リアクションホイール」という部品で、アクセルスペースと共同開発している(図2)。リアクションホイールは、主にフライホイール、電動モーター、制御基板で構成され、フライホイールの回転数変動に伴う反作用で衛星にトルクを与えて姿勢を制御する。通常、1基当たり3~4個搭載される。

図2 車載部品開発の知見を宇宙で生かす
図2 車載部品開発の知見を宇宙で生かす
シナノケンシは、小型衛星の姿勢制御に用いる基幹部品である「リアクションホイール」の開発に取り組んでいる。同社のモーター技術によって、衛星の姿勢の乱れを引き起こす振動が少ない製品を開発する。現在、アクセルスペースと共同開発中で、同社の100kg級衛星に搭載される予定。(写真:シナノケンシ)
[画像のクリックで拡大表示]

 シナノケンシが目指すのは、モーター制御により低振動で安定動作を維持する製品だ。例えば、光学観測衛星では数百km上空から撮影するため、振動が起きると解像度に悪影響を与える。価格は海外の競合製品より2~3割安く、納期は半分を目標にしている。22年度内に開発を終え、23年度に100kg級衛星に搭載して打ち上げ実証を行う予定だ。