人工衛星とそれに向けた軌道上サービスの先に見えるのは、月や火星など深宇宙の探査と開発だ。長期的に様々な技術開発が求められるが、ビジネス的にはいまだブルーオーシャンである。ここに狙いを付け、先駆的に取り組む日本企業が多く存在する。その成果は地上での課題解決にも還元されていく。技術力とユニークな発想を武器に宇宙探査市場の開拓が始まる。
1969年にアポロ(Apollo)計画で初めて人類が月面に着陸してから約50年が経過した今、人類は再び月への着陸を目指している。なぜ今、月なのか。理由の1つは、国際宇宙ステーション(ISS)が設計寿命を超え、運用終了が見えてきたからだ。
「ISSよりさらに遠くへ進んでいく必要性は、ここ十数年ずっと議論されてきた」と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)国際宇宙探査センター センター長の筒井史哉氏は話す。
一方で、深宇宙への進出は予算の関係や国際情勢などでなかなか進まなかった。そこで打ち出されたのが、まずは月の周囲に中継点を作るという「Gateway」プロジェクトである。
Gatewayは、重さがISSの約6分の1の「小型版ISS」だ。Gatewayの居住空間はISSの9モジュールから2モジュールに減り、物資補給は年に1回。滞在する宇宙飛行士は4人で、しかも1カ月程度しか滞在せず、それ以外の期間は無人で運用される。ISSに比べて利用規模は非常に小さくなり、あくまでも中継点としての位置づけになる。Near Rectilinear Halo Orbit(NRHO)という軌道に建設され、地球からの到達エネルギーが月の低軌道までと比べて約70%に抑えられるという。
世界で加速する月開発
今後の宇宙探査において、Gatewayは月への中継点とされる。そして月面は火星探査への準備拠点になる(図1)。地球から月が約38万kmなのに対し、火星は最接近時で約5600万kmと、その差は非常に大きい。こうした深宇宙探査のベースとなるのが、米航空宇宙局(NASA)が19年5月に発表した「アルテミス(Artemis)計画」である(図2)。