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米国を中心に起きている宇宙産業の破壊的イノベーション。その主役は、Elon Musk氏とJeff Bezos氏という2人のカリスマ経営者だ。特にMusk氏のSpaceXの勢いはすさまじい。海外における有力宇宙ベンチャーによるイノベーションの実態と今後について、宇宙ビジネスのコンサルティングなどを手掛けるDigitalBlastに解説してもらう。(日経エレクトロニクス)

公的資金をうまく引き出す

 宇宙市場は幅広い。図1の宇宙産業のロードマップにあるように、宇宙有人飛行を含む宇宙輸送や衛星だけでなく、惑星探査や惑星ライフライン、宇宙エンタメなど様々な領域がある。先に挙げた2つに比べると、マネタイズまでにはまだ時間がかかるが、今から着目しておくべきだろう。

図1 宇宙産業の発展のロードマップ
図1 宇宙産業の発展のロードマップ
2020年代の月の探査の後は、短期滞在、居住環境の構築が始まる。そうなればライフラインの確保など地上で求められる多くのことが宇宙でも求められるようになり、そこに大きなビジネスチャンスが生まれる。(出典:DigitalBlast)
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 例えば、米Nanoracksは月面でのライフラインや食料の必要性を前提にした取り組みを既に開始しており、ISS内で植物工場を今後構築すると発表している(図2)。この取り組みの投資元はUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ投資庁で、地球上の砂漠地帯での植物育成も視野に入れている。惑星でのライフライン開発を狙いつつ、その技術の地上への転用も加味した好事例といえる。

図2 Nanoracksが公表したISS上での植物工場のイメージ
図2 Nanoracksが公表したISS上での植物工場のイメージ
プロジェクトの投資元はアブダビ投資庁で、地球上の砂漠地帯での植物育成への技術転用を視野に入れている。(出典:Ciotola, M. Nanoracks StarLab AgTech Space Farming Center. 2020. https://www.sustainspace.com/?p=632)
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 24年の有人月面着陸や28年までの月面基地の建設開始を目指すNASAの「Artemis(アルテミス)計画」が立ち上がったことで、将来的に人類が月面で生活することが現実味を帯びてきた。この月開発では、民間企業が活躍する場は多い。

 一方で、宇宙関連ベンチャーの背後には、必ず何かしらの公的資金や公的機関の支援があることも無視できない。公的資金をうまく引き出すことも、宇宙ビジネス成功のカギなのだ。実際、SpaceXやBlue Originなどに対しては、公的資金の出資があったわけではないが、アンカーテナンシーのような需要保証を政府から受けている。

民間の産業活動において、政府が一定の調達を補償することで産業基盤の安定などを図ること。

 例えばSpaceXの場合、躍進のきっかけとなったのが06年にNASAと契約した商業軌道輸送サービス(COTS)である。COTSとは、NASAが計画・調整しているISSへの民間企業による輸送サービス計画のことである。他にも、表1に示したような商業乗員輸送開発(CCDev)がある。本契約は10年から14年で総額14億ドルの契約となっている。政府サイドは新興宇宙ベンチャーから真新しいサービスを受けられるし、民間サイドとしては政府からの出資に伴う官公庁特有の活動制約を受けずに済むため、健全な関係を構築しやすい。他方、需要保証の適切な水準の設定という課題があり、わが国でも慎重な検討がなされている。なお、令和4年度(22年度)内閣府の概算要求資料を見ると、米国ほどの規模ではないが、数十億円規模のアンカーテナンシーが用意されているように見受けられる。

表1 NASAと宇宙スタートアップの契約の例
2010年から14年までに総額で14億3160万ドル。この一部をSpaceXが受注したことが、同社が躍進するきっかけの1つとなっている。(出典:European Investment Bank. The future of the European space sector. 2019. https://www.eib.org/attachments/thematic/future_of_european_space_sector_en.pdf)
表1 NASAと宇宙スタートアップの契約の例
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