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 ソニーグループは2022年6月3日、完全子会社の米国法人Sony Corporation of Americaが、光衛星通信事業を行う新会社「Sony Space Communications Corporation(以下、SSC)」を設立したと発表した。グループ会社のソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)が研究開発を進めてきた技術をベースに、地球低軌道の超小型衛星間などを光で接続する光衛星通信機器の開発と関連サービスの提供を計画する。SSC Presidentの岩本匡平氏に展望を聞いた。(聞き手:内田 泰、佐藤 雅哉)

岩本 匡平(いわもと・きょうへい)
岩本 匡平(いわもと・きょうへい) Sony Space Communications Corporation, President。2003年4月に大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了後、ソニーに入社。研究所、技術戦略系部門を経て、2008年に米Xerox Palo Alto Research Center客員研究員。2016~2021年に宇宙航空研究開発機構主幹研究開発員を兼務。2020年7月にソニーコンピュータサイエンス研究所SOLプロジェクトリーダ。2020年に宇宙開発利用大賞内閣総理大臣賞、ISS Research Award。(写真:ソニーグループ)

光衛星通信の実用化に向けた動きが世界で活発化していますが、岩本さんは昨今の状況をどうみていますか。

 我々が当初想定していたよりも技術開発やマーケットが活発に動いているという印象を受けています。特に米国の宇宙開発局(SDA:Space Development Agency)の活動注1)を中心に、世界中の関連企業が動いていることは認識しています。これによって技術開発が活発化していくのは我々にとって喜ばしいことです。

注1)米国防総省は光衛星通信端末を搭載した小型衛星からなる衛星コンステレーションを活用する「NDSA(National Defense Space Architecture:国家防衛宇宙体系)」構想を進めている。SDAは2022年、NDSAのデータ運搬層「Transport Layer」の独自標準「Tranche(トランシェ) 1」に準拠した衛星の開発について、米Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)や米Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)など3社に発注。2000億円超の予算をつけて実証を重ね、標準仕様を調整していく。これらの企業に対して光衛星通信の端末開発で世界をリードする企業が供給する。

 ただし、まだ宇宙で本格的に実証がされていない技術なので、今から2~3年ぐらいで市場が立ち上がり始め、多くの企業が使っていく状況になるのには5~10年かかるとみています。

なぜ今のタイミングでSSCを設立したのですか。

 ソニーCSLは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、小型の光衛星通信実験装置「SOLISS」を開発し、2020年3月には宇宙と地上間の双方向光通信に世界で初めて成功しました。この技術をさらに発展させて衛星間で実証をすべく、研究開発の状況を見定めていった結果、このタイミングになりました。SDAの動きと重なったのは偶然の一致です。

ISSと光地上局間の光通信に成功
ISSと光地上局間の光通信に成功
ISSの「きぼう」船外実験プラットフォームに設置された、ソニーCSLの小型光通信実験装置「SOLISS」(a)とNICTの光地上局の間で、波長1.5μmのレーザー光による双方向光通信リンクの確立に成功。さらに100MbpsのEthernetによる通信を用いてHD画像を光地上局で受信した(b)。ポイントは出射するレーザー光を受信側に正確に当てること。ソニーグループが培った光ディスクのピックアップ技術を応用したという。(画像:JAXA/ソニーCSL)
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SDAの標準は米国の安全保障の強化に向けたものですが、かつてのGPS(全地球測位システム)と同様、新たな市場を創造するための動きという見方が民間企業には多いです。岩本さんは、このインパクトをどう捉えていますか。

 SDAは光衛星通信端末の独自標準規格を「宇宙データシステム諮問委員会」(CCSDS:宇宙データシステムの国際標準化/標準規格を検討・推奨する委員会)を通すことなく策定しましたが、それが標準化という観点で比較的リーズナブルなものであるため、光衛星通信端末を開発する企業が歓迎しています。

 これは端末の互換性を担保することが重要だからです。低軌道衛星のコンステレーションにおいて、リアルタイムのネットワークを構成するには、互換性がある光衛星通信端末を搭載した相応数の衛星が必要になります。

 「メガコンステレーション」と呼ばれる、大量の衛星を自社で打ち上げてそれを実現しようとしている企業もありますが、通常、1社もしくは1つのコンソーシアムでそれができるかと言えば難しいのが現実です。だから、互換性がある光衛星通信端末を搭載した、複数の異なる会社の衛星が相互につながり、データを地上に下ろせる(ダウンリンク)ようになることが重要です。そうなれば、ネットワークの柔軟性が高まり、アプリケーションの価値も高まっていきます。

光衛星通信のユースケースは低軌道の衛星間や低軌道衛星と地上局、低軌道衛星と静止軌道のデータ中継衛星など多様ですが、SSCでターゲットにしているのはどれでしょうか。

 主要なターゲットは低軌道の衛星間通信です。その中には低軌道ー地上局も含まれます。この分野は端末の需要が大きく、最も開発が活発だからです。我々の機器で採用している技術が民生技術に基づいていて量産を前提にしていること、またソニーCSLにおいて実証してきたSOLISSも、低軌道コンステレーションでの衛星間通信を想定し、小型化と双方向通信を重視してきました。

低軌道の小型衛星用の光衛星通信端末に向けた要求特性は、他のユースケース向けと異なるのでしょうか。

 光衛星通信端末を搭載した個々の小型衛星は、ネットワークのノードとして機能します。1台の衛星に搭載する端末の数は、ネットワークの構成や利用する軌道などによって変わりますが、標準的には4~5台になります。このため、端末には小型であることが求められます。

 さらに、光衛星通信でアプリケーションが増えていくとトラフィックが増大していくため、それにきちんと対応できるように通信の高速化が求められます。従って、技術進化のスピードに対応できるよう、運用寿命を短く設定することになるでしょう。寿命はまずは5年前後から設定することになるでしょうが、いずれはアプリケーションの進化に合わせて運用寿命を待つことなく更新していく必要が出てくるとみています。