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 ロケット開発のスタートアップであるインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)は2023年1月24日、戦略説明会を開催し、国内初となる民間主導の大型ロケットの開発計画などを発表した。その説明会で行ったパネルディスカッションに、同社ファウンダー(創業者)のホリエモンこと、堀江貴文氏が登壇した(図1)。「宇宙分野は日本が勝てる可能性がすごく高い」などと発言した。

図1 パネルディスカッションに堀江貴文氏が登壇
図1 パネルディスカッションに堀江貴文氏が登壇
左から、ISTマーケティングアドバイザーの高岡浩三氏、衆議院議員の今枝宗一郎氏、ISTファウンダーの堀江貴文氏、IST社長の稲川貴大氏(写真:日経クロステック)
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 現状、「ニュースペース」ともいわれる民間主導の宇宙ビジネスでは、米国のベンチャー企業がかなり先行している。中でも衛星ブロードバンドサービス「Starlink(スターリンク)」などを手掛ける米SpaceX(スペースX)の存在感が際立つ。堀江氏は「Starlinkのサービスが開始されたのは数年前だが、既に圧倒的なトップランナーになっている。黒字化が見えてきており、宇宙ビジネスがお金になることを証明している」と話した。

 スペースXはこれまでに、Starlink専用の衛星を3000機以上打ち上げている。自社開発のロケット「Falcon9」に専用設計をした衛星を最大60機搭載するなど効率的な打ち上げを実施している(図2)。しかも、他社の衛星をライドシェアすることで打ち上げ費用を賄っている。

図2 Falcon9から宇宙空間に放出される衛星
図2 Falcon9から宇宙空間に放出される衛星
Falcon9はStarlink用の衛星を、最大60機同時に軌道投入できる(写真:SpaceX)
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 堀江氏はStarlinkのビジネスについてこんな見方を示した。「正確な値は不明だが、我々はFalcon9の1機当たりの打ち上げ原価は15億~20億円と見ている。Starlink衛星を1機当たり1億~2億円とすると、1回の打ち上げに伴うコストはおよそ100億円。そして1回の打ち上げでStarlink衛星を平均50機を放出しているとすると、これまでにかけた費用は5000億~6000億円になる。一方、Starlinkサービスは既に100万契約を突破しており、年間1200億円以上を売り上げている。単純計算で、もう黒字化が見えている」

 スペースXは2023年1月、Starlinkのサービス料金の大幅値下げに踏み切った。固定住所向けプランの「レジデンシャル」は、昨年比で約半額の月額6600円(日本向け料金)となった。「光ファイバーによる固定回線と同等レベルまで一気に下げることによって、1000万契約の実現も見えてきた。これなら今のペースで年間50回打ち上げても余裕でペイする」(堀江氏)

 スペースXがこうしたビジネスを展開できるのは、自社でロケットを保有し、これまでの宇宙業界の常識では考えられない高頻度の打ち上げによって低コスト化を実現したからだ。もちろん、他社も追随しようとしているが、現状ではスペースXが圧倒的に先を行っている。「勝ち筋があるとしたら米Rocket Lab(ロケット・ラボ)ぐらいしかない」(堀江氏)

 それでも、同氏は大きなチャンスが到来しているとみている。理由の1つが、ロシアによるウクライナ侵攻だ。「以前は、日本の宇宙ベンチャーがロシアのロケット『ソユーズ』で打ち上げることも多かった。しかし、現在ではソユーズが使えなくなった。一方で、米国のロケットを使うには(安全保障上の対策から)ペーパーワーク(書類の作成)がすごく大変ということもあって日本のロケットに対する期待は大きい。業界で1社独占ということはないので、2~3社は残る。だから、勝てる可能性はすごく高いと思っている」(堀江氏)

 ISTには「地の利」もあるという。通常、地球低軌道に衛星を投入するには東向きにロケットを打ち上げる必要がある。ISTが位置する北海道大樹町の射場(北海道スペースポート)は、東側に太平洋が広がっているので打ち上げに適している。これに対して、例えばフランス国立宇宙研究センターは、フランス国内ではなく、南米のフランス領ギアナに射場を保有している。欧州で製造しても、ギアナまで輸送しなくてはならないため、コスト的に不利となる。