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 重さが500gに満たない世界最小の月面探査車(ローバー)を使った、日本発の新しい“月ビジネス”が2023年秋に始動する。ロボット・宇宙系のベンチャー企業であるダイモン(東京・大田)が手掛ける月面実験プラットフォーム事業である。

 同社が開発した小型・軽量性と高強度を兼ね備えた月面ローバー「YAOKI(ヤオキ)」をプラットフォームとし、そこに技術パートナー企業の製品、具体的にはモーターやバッテリー、通信機器などの部品や耐熱・高強度部材などを組み込んで月に輸送して動かす(図1)。

 例えばモーターを実装した場合、それが月面という厳しい温度・放射線環境下でどれだけ動いたのか、壊れたとしたら温度は何度だったのか、などさまざまなデータを取得することを想定している。

図1 重さ500g未満の月面ローバー
図1 重さ500g未満の月面ローバー
寸法は15cm×15cm×10cm、重さは498g。100Gの衝撃に耐える。標準でカメラ1個とWi-Fiの通信機能を搭載する。初号機には温度センサーなども搭載する。同社代表取締役の中島紳一郎氏は、かつてドイツBosch(ボッシュ)でドイツAudi(アウディ)向けの4輪駆動システム「quattro」を開発した元自動車エンジニアである(写真:日経クロステック)
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 顧客企業にとっては、「自社の製品が月で動いたという実績をつくれたり、(センサーを搭載すれば)月面環境でのデータを取れたりする。それを世界にアピールできる」(同社マーケティング・広報担当)としている。

 一般に月への輸送には1kgあたり1億円程度の費用がかかるといわれている。YAOKIは寸法が15cm×15cm×10cmで、重さが498gと小型・軽量であるため、顧客にとって他の月輸送サービスよりコストが低いのがメリットだという。

 現在、宇宙系ベンチャーispace(東京・中央)の月着陸船(ランダー)が、月へ向けて宇宙を航行中だが、技術パートナーのペイロードを輸送するという点ではダイモンのビジネスモデルに似ている。しかし、ダイモンは「当社の場合はネジ1本から宇宙で実験できる。中小企業の要素技術を宇宙でテストするのに使える」(同)としている(図2)。

図2 月面ローバーを実験プラットフォームとして提供
図2 月面ローバーを実験プラットフォームとして提供
YAOKIの内部構造とパートナー企業がYAOKIに搭載して実験できる部品や部材などの例。ローバーは基本部分を維持しながら、ミッションやパートナーに応じて機能がカスタマイズされる(出所:ダイモン)
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 具体的には、技術パートナーとは年間契約ベースで、1年あたりの料金は1000万~2000万円程度になるという。「実際には1年だと期間が短いので、3年契約で2~3回月に打ち上げるようなケースが多くなってくると想定している」(ダイモン)。

 月には高低差が大きい段差やくぼ地、洞窟などが点在している。月面ローバーは人に代わって月面を探査するモビリティーであるため、バランスを崩しにくく姿勢回復が容易なことが求められる。そこでYAOKIは、上下対称の2輪ボディーのデザインになった。また、100Gの衝撃に耐える設計になっているため、洞窟への投げ込み探査も可能だという。

 YAOKIは標準でカメラ1個とWi-Fiの通信機能を搭載する。センサーはミッションの内容やパートナーによって何を搭載するかが変わってくる。ちなみに、YAOKI(やおき)という名称は「七転び八起き」から来ている。