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 主戦場とする国内ホームセンター市場は10年以上にわたり、店舗数増による販売効率の低下などを背景に停滞傾向にあります。しかし我々は1989年の創業以来、一貫してほぼ右肩上がりの成長を続け、2020年度には売上高が過去最高の4854億円に達しました。

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デジタルの目的は、“お客様との接点をより良く”と明確にしました

 成長の裏には3つの段階がありました。第1段階は店舗大型化、多店舗展開に取り組んだ創業来の15年。第2段階は自社開発商品の販売も手掛けるSPA(製造小売り)に転換を果たした次の15年です。第3段階が現在で「第3の創業」とも位置付ける、2021年度を最終年度とする中期経営計画に基づく活動です。成長を実現している時にこそ変革に挑戦することが、さらなる成長につながると考えます。

 現在の中期経営計画では、創業の理念でもある「社会的価値と経済的価値の両立」を、これからの時代に合った形で実現することを掲げました。その手段にデジタル戦略を盛り込んでおり、「IT小売企業」という新たな業態を築くという気概で進めています。

IT小売企業への転換目指し社内リソースゼロからスタート

 デジタル戦略について説明します。当社はDXにとどまらず、社員の行動や価値観を変えるCX(Corporate Transformation:企業変革)を目標にしています。ポイントは2つです。

 1つ目は「徹底した内製化」。実は2年前まで、デジタルを理解している社員はほぼ皆無で、社内ITもグループ子会社にほとんど任せている状態でした。内製化はスピード感を高めるため、そして何より顧客接点を自分事としてつくってもらうために不可欠でした。中期経営計画内の3年間でIT・デジタルに150億円近く投資してきており、外部人材も獲得し、社内のIT部隊は約150人体制となっています。

 2つ目が「目的の明確化」です。デジタルで何をやりたいのかを明確にしなければ戦略が迷走してしまう。出した答えは、「デジタルをいかに使ってお客様との接点をより良くしていくか」でした。買い物体験から煩わしさをなくす「ストレスフリー」、デジタルツールで一人ひとりにあった提案を行う「パーソナライズ」、店舗以外でもお客様とつながる「コミュニティ」、ワクワクする店舗や体験の場を作る「エモーショナル」――。この4つをキーワードにDXに着手しました。

サイロ化したシステムをAPIでつなぎリアルタイムのデータ活用を実現

 DXを進める中で、大きな推進力となったのが「API部品庫」のアーキテクチャでした。

 当社は30年以上の歴史、4000億円超の売り上げ、1万人以上が働く規模を持つ会社です。POSやマーチャンダイジング、基幹系ホストなど、システムは多岐にわたりますが、それぞれがサイロ化していました。店舗の在庫データなどはリアルタイムに取得できず、といって連携させるシステムを一から開発したのでは、膨大なコストと時間がかかるという壁にぶつかっていました。

 解決策として、当社のデジタル部隊は既存システムやホストを残したまま、統合データソースという連携基盤を作り、多数のAPIを「部品」として組み合わせることでECサイトや倉庫などのフロントエンドのシステムとデータ連携する方式を採用しました。この「API部品庫」が奏功しDXの取り組みが加速しています。

 売場・在庫検索アプリの「Find in CAINZ」は、商品名やキーワードを入力すると、売場や在庫数を表示します。各店舗の在庫数は、ホストのシステムに入る前日夜の在庫数から当日レジを通った数や取り置き数、納品数などをAPI経由で加減算することで算出します。買い物中のお客様のカート内に入っている商品があることも想定し、経験則から安全係数を掛けて表示します。

 API部品庫を活用することで、最初からリアルタイムな在庫管理システムをつくるよりもはるかに速くかつ低い開発コストでサービス投入できました。

 在庫数を顧客へ表示できるようになったことで、来店前に商品を注文して店舗の専用ロッカーやカウンターで受け取れる「CAINZ PickUp」というサービスを展開できるようになりました。

 コミュニティづくりにもデジタルが貢献しています。お客様やカインズのスタッフ、メーカー、クリエーターなどが参加する参加型コミュニティ「となりのカインズさん」など、オウンドメディアの展開です。ページビューは月間450万超(2021年6月時点)に上っています。リアル店舗に来店するお客様数が月間平均約1200万~1300万人ですので、およそ1対3の割合でオンラインとリアル双方でお客様とのつながりを得られるようになりました。メディアの利用者は月を追うごとに増えていますから、いずれ1対1くらいの規模になるでしょう。

 こうした「デジタルをいかに使ってお客様との接点をより良くしていく」という取り組みを通して、リアル店舗を主体とした「IT小売企業」へ一歩ずつ近づいているように感じています。カインズではさらにデジタル活用を進め、買い物の前も後も、お客様とつながる世界を実現するため、新しい形でのオンラインとリアルの融合を目指します。

本記事は2021年8月18日~20日にオンライン開催された「IT Japan 2021」のリポートです。