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東京オリンピックでは日本代表が野球で金メダルを獲得しました。ご自身も過去に2度出場された上原さんはどうみましたか。

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自分の軸を持ち、決して曲げず、強みを磨くその繰り返しが成果につながると信じていた

 自国開催で金メダルを取って当然という空気もあった中で、結果を出すのは大変だったでしょう。実際、私が出場したアテネと北京では、期待が大きかったけれど取れなかった。期待は重圧にもなります。オリンピックを含めた国際大会では、少ない試合数でいかに勝ち抜くかというレギュラーシーズンとは全く違う緊張感の中に置かれます。内容どうこうではなく、1回の結果がすべてとなるからです。投手陣をはじめとした若手中心のチームの奮闘で、正式種目としては初の金メダル獲得と、しかも一度も負けなかったのは本当に素晴らしい。うらやましい気持ちもありましたね。

期待は重圧という話がありましたが、常勝が求められる読売ジャイアンツに入団した当初はどんな心境だったのですか。

 私は入団会見で「ジャイアンツに染まりたくない」と言いました。自分は「雑草」ですから、エリートには負けたくないという反骨心が強くありました。1年目はがむしゃらにやって20勝。多くの賞をいただき、マスコミにも取り上げられましたが、2年目は故障もあって9勝止まり。すると、今度は叩かれます。好きなことを仕事にすれば、楽しいだけではなくて責任も大きくなるわけです。プロは結果がすべてですから、故障で休むと、居場所もなくなる。自分のため、チームに迷惑をかけないため、体調管理に努め、安定した成績を残すにはどうすればいいかを考えるようになりました。

挑戦してボロボロになってもいい 悔いだけは残したくなかった

メジャーリーグへの挑戦は、プロ入り前からの夢だったそうですが、FA権を取得し、オリオールズに入団したのが2009年。33歳での挑戦でした。

 前年の成績が悪く、「通用しない」「ピークを過ぎた」といろいろ書かれました。しかし、根が雑草ですから、ボロボロになっても悔いだけは残さないように挑戦したかった。結果、メジャーに9年在籍し、2013年にはワールドシリーズの胴上げ投手になるという、夢のような経験ができました。挑戦して本当によかった。

日本とアメリカでは違う部分も多いでしょうが、振り返ってみて、成功した理由はどこにあるとお考えでしょうか。

 細かい違いはありますが、野球をやるという根幹は同じです。日米を通じ、貫いてきたのは、「自分を曲げないこと」でした。周囲には情報があふれています。調子が上がらない時には「こうしたほうがいい」と助言をしてくれる人もいるし、科学的な投球フォームの分析も日々進化しています。有益な情報もありますが、自分の軸をしっかり持っていないと情報に踊らされ、すべて中途半端になってしまう可能性がある。練習方法も投球フォームの改良も、完全に納得しなければ取り入れないようにしていました。

流されず、自分のスタイルを確立しなければいけない、と。

 ほかのピッチャーを見て、ああいうボールを投げたいと思い、試したこともあります。ただ同じ握り方で投げても、同じ軌道には絶対にならない。それよりも自分が持つボールの精度を徹底的に上げたほうがいい。練習を繰り返し、絶対の自信を持って投げられるのがストレートとフォーク。それが私の武器であり、メジャーで成功する切り札でした。

求められる場所で結果を残せば評価は自ずとついてくる

9年間のメジャー在籍で、先発から中継ぎ、抑えを経験していますが、先発に対する執着はなかったのですか。

 もちろんありました。ずっと先発でいたかった。ですが自分の調子、チーム編成の都合で思うようにならないことはあります。監督から「先発では使わない」とはっきり言われた時に、気持ちを切り替えました。自分の目標はメジャーで投げることであって、先発にこだわることではないと。中継ぎでも抑えでも、求められるところで最高のパフォーマンスを発揮するのがプロ。こう思えたから、9年間続けられたのでしょう。

これからメジャーリーグに挑戦する選手、世界を相手に戦うビジネスパーソンに向け、メッセージをお願いします。

 野球もビジネスもチームが基本ですが、まず「バカになれ」と言いたいですね。言葉が通じなくても関係ない。バカになって、おもしろいヤツと思われれば、コミュニケーションのハードルが下がるものです。アメリカでは練習時に、なるべく通訳と離れて行動しました。そうするとチームメイトから気軽に話しかけてもらえ、溶け込みやすくなるからです。居場所を与えられたら、周囲の評価や氾濫する情報を気にし過ぎず、やるべきことをやる。最悪なのは、挑戦しないで後悔することです。自分を信じて一歩踏み出してください。違う景色が見えてくるはずです。

進行/フリーアナウンサー 森藤 恵美 氏
進行/フリーアナウンサー 森藤 恵美 氏
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本記事は2021年8月18日~20日にオンライン開催された「IT Japan 2021」のリポートです。