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 コロナ禍で、企業経営を取り巻く環境は様変わりしました。

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経営者の覚悟とリーダーシップ “七転び八起き”する起き上がりこぼしのようにしなやかに変化できる組織づくりが重要です

 注目すべきは、ビジネスパーソンの就業意識の変化です。ある調査では、9割以上が企業に依存しない自立的なキャリア形成の必要性を感じると回答しています。別の調査では、在宅勤務経験者で独立を検討する人が以前の2倍に増えたという結果が出ています。

 ESG(環境、社会、企業統治)への認識も広がっており、コロナ禍で「世の中のためになる仕事をしたい」と考える学生が2年前と比較し、3ポイント増加しました。企業にとってESGへの取り組みは、社会課題の解決に寄与するだけでなく、優秀な人材を惹きつける上でも重要になっています。

 デジタル化の遅れに対する危機意識の高まりも顕著です。経済産業省の「DXレポート2 中間取りまとめ」は、実に95%の日本企業で組織を横断したデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいないと指摘しています。散発的なデジタル活用にとどまり、全社のDXにはつながっていないのが実態です。これに危機感を抱く経営者が増えています。

 対応すべきリスクの多様化も見逃せません。サイバー攻撃やサプライチェーンリスク、法規制や地政学リスクなど、経営を脅かす要因は無数にあります。コロナ禍以降は、リモートワークの普及に伴う不正行為や不祥事も増える可能性があり、これにも対処しなければなりません。

 外部環境の変化に柔軟に対応するため、求められるのがレジリエンス経営です。レジリエンスは「柔軟性」や「弾力性」と訳されますが、当社は“七転び八起き”と意訳しています。強固なだけでなく、起き上がりこぼしのようにしなやかに変化に対応できる組織をつくることが不可欠です。

レジリエンス経営に向けトップが果たすべき4つの役割

 レジリエンス経営を目指す企業のトップには、4つの役割が求められます。

 1つ目は企業の存在意義であるパーパスの再定義と浸透です。社会課題の解決にリンクしたパーパスに設定し直し、社員を鼓舞して共感を得ることが必要です。

 これで成功した組織の好例がソニーグループです。同グループは2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」という世界共通のパーパスを発表。多くの事業を展開する組織と、個々の社員のパーパスの共通点を示すとともに、これを社外のステークホルダーにも発信することで市場でのプレゼンスを高めています。

 2つ目は「個」の活用です。多様な個の価値観を武器にすることで、社員に自主的な変革への行動を促します。

 これについては、サントリーホールディングスの取り組みが参考になるでしょう。「人・組織の多様性をイノベーションに」という考えは、人材の多様性を推進し、多様な価値観や発想を取り入れ、生かすことにより、より大きな価値を創出する「ダイバーシティ経営」が狙いです。その実現に向け、新たな価値創造を目的とした「Suntory Group Diversity Vision」設定や“Global One Suntory”の実現に向けて、サントリー大学の設立による、リーダーシップとキャリア開発、カルチャー・創業の精神(やってみなはれ)の実践に取り組んでいます。

パーパスを目指し、リスクの海原を進む 経営者のイニシアチブが重要になる

 3つ目が、テクノロジーの活用による大胆なビジネストランスフォーメーションです。個々の業務を効率化する「デジタル化」ではなく、アナログとデジタルを組み合わせて「ビジネスモデルそのものを変革する」ことに主眼を置きます。

 先進的な取り組みで知られる日本企業が、ヤマト運輸などを傘下に持つヤマトホールディングスです。DXを経営構造改革の中核に位置付け、YDX(Yamato Digital Transformation Project)の名のもとで取り組みを推進。地域の社会インフラを担う存在へと進化・変貌することを目指しています。

 グローバルでは米ウォルマートの取り組みも知られています。デジタルの世界と実際の買い物というリアルな世界を融合させるべく、技術や知見を有するデジタル新興企業を買収しています。巨大企業でありながらフレキシブルにトライアル&エラーを繰り返せる土壌を作り、現場のアイデアを吸い上げてアジャイルな開発を進めていることもポイントです。

 最後の4つ目が、多様なリスクに備え、迅速に対応することです。肝心なのは、個別のリスクに対応するのではなく、全体を網羅的にとらえて経営課題として向き合うことです。リスクを成長の機会に変えることも可能です。

私が考える“レジリエンスワールド”

 昨今のコロナ禍でも、ただ収束を待つだけの企業とビジネスチャンスを探り、画期的な商品・サービスの開発に挑む企業との差は出始めています。リスク対応を将来シナリオにつなげられるか否か──。経営者の想像力次第といえるでしょう。

 組織は、多様な価値観を持つ社員を乗せた「船」です。パーパスは空に浮かぶ北極星のように行く先を示し、広い海原に潜むリスクや障害をマネージし、チャンスへと変える指針となります。ときにはほかの船とも連携しながら、長い航海を続ける。強い覚悟とリーダーシップで導くことが、船長である経営者の役割です。

本記事は2021年8月18日~20日にオンライン開催された「IT Japan 2021」のリポートです。