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 日本企業のビジネストランスフォーメーション(BX)とDXを支援したいという思いから、大手コンサルティング会社を退職し2021年に「B&DX」を設立しました。日本企業において、お客様含め1000人以上のDX人材を育成してきた経験から、変革推進に必要な人材の姿についてお話しします。

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かつて最強だった日本の人材育成 この成功体験を捨て新たな視点を持て

 DXというと「D(Digital)」、すなわちAIやIoTなどのテクノロジーに注目が集まりがちですが、Dはあくまで「X(Transformation)」を実現するための手段にすぎません。DXの本質はXであり、日本企業に求められているのは、デジタル技術を活用してビジネスモデルと企業構造を継続的に変革していく姿勢です。

 残念ながら、経済産業省の「DXレポート2 中間とりまとめ」によれば、日本企業の90%以上がDXに未着手、もしくは一部門での推進にとどまっているのが現状です。

 主な要因は人材不足です。総務省の「情報通信白書(令和3年版)」によれば、DX推進上の課題として53.1%の企業が人材不足を挙げており、課題のトップに位置しています。当社にも人材不足を解消したいと相談に来るお客様が増えています。

日本独自の経営スタイルが現在の人材不足を招いた

 この状況を生み出した原因は、日本独自の経営スタイルにあります。

 日本企業は、高度経済成長期からバブル期までに「単一事業・量的拡大」のビジネスモデルで成功しました。前例踏襲を良しとし、改善・改良を繰り返しながら再生産を続ける。求められるのは、与えられた指示を遂行できる同質的な人材です。

 今求められている人材像は180度異なります。現在は「VUCA※」の時代です。かつて成功したビジネスモデルはすぐに通用しなくなり、最新のデジタル技術を活用したビジネスモデルに取って代わられます。求められるのは、過去の成功にとらわれず、リスクをとって挑戦できる人材、新しいビジネスの在り方を模索し、自ら切り開いていける人材です。

 当社はこうした人材を「DX人材」と呼んでいます。DX人材は、デジタル技術を活用し、周囲を巻き込みながら全社レベルで抜本改革をリードする人材であり、デジタル技術を活用して社会に提供すべき新たな価値を創造する人材でもあります。

 このような人材は、「知識・経験」「スキル」「マインド」という3つの面で、特別な資質を備えていなければなりません。知識・経験の面では、DXに関するノウハウやテクノロジーの知識、会社の構造や事業・市場の理解が必要です。スキルの面ではリーダーシップ、対人関係の構築力、課題を認識し解決する力、アイデア力・創造性などが求められます。そしてマインドの面では、挑戦・自己変革、諦めない心、責任感などが不可欠です。

学ぶ機会を組織が提供する効果的なアプローチは5つ

 DX人材を育てるには、企業側が学ぶ機会を積極的に社員へ提供する必要があります。方法としては5つのアプローチがあります。

 1つ目は、外部のセミナーや研修の受講です。例えば、私が支援したある企業では、各部門の長がDX人材の候補者を推薦し、候補者は知識・経験やスキルの習得に向け、約半年間、週1回の頻度で外部の研修を受講しました。

 B&DXも、このような企業を支援する研修サービスを提供しています。経営層、DX推進組織、全社員といった職域・役割ごとにコースを設定し、テクノロジーやツールの解説にとどまらず、「会社やビジネス構造をどう変革するか」を重視してDXに取り組める人材を育てます。

 2つ目のアプローチが、多様な仕事に携わる機会を与えることです。ジョブローテーションにより、経営企画や営業現場、海外拠点などの異なる立場で経験を積ませます。会社や事業の構造を体系的に理解できるようになり、DXに向けたマインドが醸成されます。

 3つ目が重要プロジェクトへの抜てきです。DX人材の候補者を、全社規模あるいは成長戦略に直結するプロジェクトにアサインし、経験の蓄積と能力向上を図ります。

 4つ目は、ビジネスアイデア創出のルール化です。ある企業では「週に4時間、新規ビジネスを考える」ことをルール化し、全社員に徹底しています。その上で、定期的に新規ビジネスコンテストを開催。選ばれた案はプロジェクト化され、役員が伴走する体制で発案者が自らリードして進めます。これによって、社員のスキル向上とマインドの醸成を図っています。

 5つ目が、DXをやる気にさせる評価の仕組みを整えることです。個人評価の指標に「DX貢献度」を盛り込むのは1つの方法でしょう。DXに向けてどう取り組んでいるかを、報酬に反映します。

 従来の延長線上にある手法では、DX人材を育てることはできません。DXのXを加速するため、今こそ人材育成とあらためて向き合うことが大切です。

※Volatility:変動性・Uncertainty:不確実性・Complexity:複雑性・Ambiguity:曖昧性

本記事は2021年8月18日~20日にオンライン開催された「IT Japan 2021」のリポートです。