全2698文字
PR

 トヨタ自動車の材料活用に「異変」が生じている。新型「ランドクルーザー」の後部座席に設けたエアコン吹き出し口の縁パネル「リアレジスターパネル」と、新型「MIRAI」の同じく後部座席のヒーター操作パネル「リアヒーターコントールパネル」にバイオプラスチック(以下、バイオプラ)を採用したのだ(図1)。

図1 トヨタ自動車が採用したバイオプラ製部品
[画像のクリックで拡大表示]
図1 トヨタ自動車が採用したバイオプラ製部品
上が新型「ランドクルーザー」の「リアレジスターパネル」。下が新型「MIRAI」の「リアヒーターコントールパネル」。(写真:日経クロステック)

 「異変」と表現した理由は2つある。1つは、同社は新材料の採用に極めて慎重だからだ。材料業界では「石橋をたたいて壊すつもりかと疑うくらい、トヨタは新しい材料に対する採用基準が厳しい」と噂されているほどだ。

 もう1つは、同社はこれまで高コストを理由にバイオプラの採用を控えてきたからである。

 実は、かつてトヨタ自動車はバイオプラの実用化に積極的だった。2011年には内装表面積の約8割にバイオプラ製内装材を搭載したクルマ「SAI」を発売したこともある*1。ところが、さすがの同社も材料コストの高い壁を乗り越えられず、いつの間にかバイオプラの採用意欲がしぼんでしまった。

*1 サトウキビ由来のバイオポリエチレンテレフタレート(バイオPET)。性能(耐熱性、耐久性、耐伸縮性など)で石油系プラスチックと同等のレベルを実現し、原料のバイオPETが量産されれば、将来的には石油系プラスチックとほぼ同等の部品コストが実現可能と、当時のトヨタ自動車は説明していた。

 バイオプラに対するトヨタ自動車のこの消極的な姿勢を積極的なものへとガラリと変えたのは、もちろん、世界的なカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)シフトである。現に、この流れを受けてトヨタ自動車は「今後はバイオプラを積極的に採用したい」(同社の材料系幹部)と考えを改めた。この言葉を具現化したのが、ランドクルーザーとMIRAIに採用した2つのバイオプラ製部品だったというわけだ。