ダイセルは、海水での生分解性に優れたプラスチックを開発した。同社の酢酸セルロース(アセチルセルロース)「CAFBLO」で、2021年9月にテュフ・オーストリアによる海洋生分解性の国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得(図1)*1。酢酸セルロースの従来品よりも生分解しやすく、しかも物性は従来と同等に保てる化学構造を見いだした。
仮に製品が海へ流出しても、1年以内程度で分解して、海洋マイクロプラスチックごみになりにくいと期待できる。ダイセルは、流出が懸念される製品などへの用途開発を進めていく考えだ。
高い生分解性を確保
海水は土壌やコンポストに比べて微生物が少なく、温度が上がりにくいなどの理由で、プラスチックの生分解は進みにくいとされる。その中で酢酸セルロースは、もともと生分解性が比較的高い*2。
その理由は、酢酸セルロースの構造にある。酢酸セルロースは、木材(植物)の主要成分であるセルロースの分子に含まれる水素の一部が、酢酸分子の主要部であるアセチル基で置き換わった(アセチル化した)物質(図2)。エステル加水分解酵素がある自然環境下ではアセチル基が外れ、酢酸とセルロースに戻る。そして、セルロースは木材同様に微生物によって生分解されて水と二酸化炭素に変わる。酢酸はもともと自然界に存在する。
ダイセルは酢酸セルロースについて、顧客から「海洋生分解性の認証が取れればよいのに、とよく言われた」(新規CA事業構築プロジェクト プロジェクトリーダーで農学博士の樋口暁浩氏)。従来品でも海水中で数年たてば分解するが、6カ月以内に90%以上(絶対的または基準物質に対して相対的)が生分解しなければならない、といったOK biodegradable MARINEの厳しい基準までは満たせなかった。
そこで、ダイセルは20年から海水中での生分解性を高める開発に取り組み始めた。生分解性を高める、つまり酢酸とセルロースに戻るまでの時間を短縮する方法としては、アセチル基の量を減らすのが1つの手だ。
セルロース分子はグルコース環が長くつながった構造であり、個々のグルコース環にはアセチル基を付けられる場所が3カ所ある。通常はアセチル基が3個付いたグルコース環と、2個が付いたグルコース環が混在する。
この平均個数をアセチル基総置換度(DS)といい、2と3の中間の値になる。ダイセルの既存製品のグレードでは、「LTシリーズ」のDSが2.9で、トリアセテート(三酢酸セルロース)*3と呼ぶ。DSが2.5の「Lシリーズ」はジアセテート(二酢酸セルロース)と呼んでいる。
海洋生分解性を得る上では、DSは低い値の方が有利になる。実験でDSを下げたものを作ると、ある値のところで生分解性が急激に高まるという。ダイセルはこの値を明らかにしないが「2.5よりも低いところを探した」(同氏)。DSは低いほどよいわけではなく「プラスチックとして利用する際の物性が低下しない範囲で最適なところを探った」(同氏)*4。さらに分子量も調整し、分解性と材料としての品質を両立できる点を探った(図3)。