軽量化が求められる製品では、しばしば部品の小型化や高密度化などに伴って熱のコントロールも必要になる。例えば、電気自動車(EV)やドローンは、モーターなどを効率的に冷却できるのが望ましい。ウエアラブル機器も軽い一方で、装着者がやけどをしないように動作時の温度を抑制しなければならない。だから、軽量な構造用材料に高い熱伝導性を持たせれば一石二鳥を狙える。
東レはこの目的で「高熱伝導CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」を開発、2021年5月に発表した。CFRPに、金属以上の高い熱伝導率を持つ物資を組み合わせた複合材料だ。熱伝導率の高さや熱を伝える方向を調整できる特徴もあり、生産には既存のCFRPと同様の設備を使える。
金属以上の熱伝導性も狙える
CFRPの強化材料である炭素繊維の熱伝導率は高いが、母材であるプラスチックの熱伝導率が0.1W/m・K強と低い。CFRP全体としての熱伝導率は高い場合でも100W/m・K、通常は数十W/m・K程度で金属(100~300W/m・K程度)よりも1桁低く、そのままでは熱を移動させる放熱機能は期待できない(図1)。
開発した高熱伝導CFRPを使うと、発熱源のある製品の温度を抑制しやすい。高熱伝導の板材にヒーターを付けた実験では、通常のCFRPよりもヒーター近くの温度が低くなった。熱がヒーター付近にとどまらずに広がっていくためだ。金属(アルミニウム合金)に比べても、ヒーター付近の温度をより低くできる(図2)。
グラファイトシートをサンドイッチ
高熱伝導CFRPはサンドイッチ構造になっている。“ハムカツサンド”で例えると、中心のハムに当たるのが金属以上の熱伝導率を持つグラファイト(黒鉛)シート、これを覆うハムカツの“ころも”に当たるのが多孔質のフォーム材料(多孔質CFRP支持体)。そしてこれらを上下から挟み込むパンとして、長い炭素繊維が入った通常のCFRP板を使う(図3)。多孔質CFRP支持体は短い炭素繊維を含んでおり、東レはこれを「CFRF(炭素繊維強化フォーム)」と呼ぶ。
CFRFはグラファイトシートとCFRP板を結び付けるだけでなく、グラファイトシートを補う役割を担う。グラファイトシートの熱伝導率は1000W/m・Kを超え、金属より1桁大きいため、現在でも高い放熱性能が必要な製品にしばしば使われる。しかし、もろくて破れやすく、発熱体の表面などに張っても剥がれやすいなど、構造を維持しにくいのが弱点。新材料では「CFRFの剛性が高くて変形せず、グラファイトシートが壊れない」(東レ複合材料研究所長の吉岡健一氏)という効果を得られた。
CFRFは、東レが16年に発表した時点では「超軽量と高剛性を両立する」(同社)と位置づけていた。比重は0.2~0.6と低く、剛性はガラス繊維などによる繊維強化プラスチックと同等(弾性率は5~12GPa)。短い炭素繊維が3次元的な構造体を形成しており、内部に細かな空隙をつくる。板状に限らず、さまざまな形状に成形できる特徴もある。東レは16年当時から、CFRFを通常の長繊維のCFRPで挟んだサンドイッチ構造の材料を、軽量性と剛性に加えて引っ張り強さも高められるとして提案していた*1。