気候変動への社会的な懸念が本格化する中、二酸化炭素(CO2)をはじめとした温暖化ガスの排出量を削減し、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を実現する手段として新材料に注目が集まる。材料技術が脱炭素に果たす役割は幅広い。材料そのものを化石資源由来ではなくすという方法以外にも、コスト面から現実解として採用される既存技術を踏襲しつつ、それを補完し、高度化するような材料も次々と生まれている。
製品ライフサイクル全体で排出量削減
近年、脱炭素の分野でも製品のライフサイクル全体での環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方が広がってきている。材料自体や部品・製品の製造段階、製品として使用する段階、使い終わった製品を廃棄処理する段階のそれぞれでのCO2排出量を考える(図1)。
例えば、植物などのバイオマス由来の材料であれば、廃棄後の分解などによりCO2は発生するものの、もともと植物が空中のCO2を取り込むなどした炭素だから、長期的に見て大気中のCO2は増やさない(炭素中立、カーボンニュートラル)。生分解性のある材料ならば、土中や海水中などで水とCO2になり、焼却処分で燃料を使う必要もない。
製品の使用段階でのCO2排出量削減に向けては、材料の機能向上が貢献する。典型的なのは、高強度化による軽量化。自動車やドローンなどの移動体は、軽量な材料の採用によって運用時のエネルギー消費が減る。仮に、化石資源由来の燃料や電気で動くとしても、エネルギーの消費量が減ればそれだけCO2排出量は減る。
全ての場面でCO2排出量を減らせれば理想的だが、実際にはトレードオフがある。例えば、衛生の維持のため再利用が難しい製品では廃棄後のCO2排出量削減を重視し、他の製品ではリサイクルを前提として運用時の排出量削減を重視する、といった方法となるだろう。