バイオマス化で排出量削減
LCAの視点で材料による脱炭素を考えた際、場面によって求められる特性は変わってくる。2021年現在で材料として脱炭素を目指す開発と応用は、主に2つの方向で進む(図2)。
1つはバイオマス由来にして脱炭素を図る方向だ。例えば、バイオプラスチックの代表格で、生物由来かつ生分解性があるポリ乳酸(PLA)。日本はPLAの成形技術で先行しており、本格的な普及に向けて期待が高まっている。
既存の材料をバイオマス化する取り組みも進む。ポリカーボネート(PC)を化石資源(石油)由来から生物由来に転換した三菱ケミカルのバイオポリカーボネート「DURABIO」は、自動車メーカーの採用が相次ぐ。射出成形だけで良好な外観品質を保てるという長所を強めたため、材料自体のコストが高いにもかかわらず、ユーザーである自動車メーカーに塗装工程の省略というメリットを提供する。
過去のものになった、と見られていた材料も復権を狙う。酢酸セルロースは初めての合成が19世紀という歴史のある材料だが、化石資源由来の安価なプラスチックに押されて活躍の場を狭めていた。しかし生物由来のセルロースから製造でき、最近になって海洋生分解性も確立して注目を集めている。
バイオマスに関しては、よく使われるサトウキビの搾りかすなどのほかに、これまで見向きもされなかったものを利用する動きがある。日本原子力研究開発機構(JAEA)は、食品廃棄物である豚骨ガラから、高性能の金属吸着材料を開発した。材料本体に加え、複合材を製造する接着性機能材料もバイオマス化が進む。
軽量化や耐久性向上で脱炭素
もう1つは、機能性を高め、LCAの点で脱炭素に貢献できる材料である。
比較的新しい材料として、先端的な製品から採用が広がりつつあるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)。東レは、熱伝導率を高めたCFRPを開発し、自動車やドローンのような小型のモビリティー、携帯機器向けにも売り込む。構造材料として放熱機能を併せて担い、省エネルギーによるCO2排出量削減をアピールして、新分野への浸透を図っている。
ユニプレスは1.5GPa級の高張力鋼板(ハイテン材)を冷間プレスで加工できるようにした。ホットスタンプに比べて低コスト化が可能で、車体の軽量化を進めやすくなる。
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の耐薬品性を向上させる添加剤を開発したのが三洋化成工業だ(Part4[三洋化成工業 ABS耐薬品性向上剤]参照)。普及している汎用プラスチックの劣化を防げるため製品寿命が延び、ひいては廃棄によるCO2排出を削減できる。
このように、材料技術が脱炭素へ果たす役割は多岐にわたる。場面に応じて最適な選択肢を得るためにも、さまざま方法で脱炭素に貢献できる材料の存在が望まれる。