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 私が経営する会社のスタッフは全員、ものづくりの経験が豊かです。幅広い知見に基づく知恵を生み出せる面々がそろっています。ものづくりに必要な知見は、XYZ軸を使って次のように表すことができます。

  • X軸:機械や電気、電子、半導体などの分野
  • Y軸:プロセスである企画と開発設計、生産技術、品質、生産など
  • Z軸:コンポーネントやサブシステム、システム

 この座標で構成される「業務空間」において、それぞれの企業には埋めなければならない領域があります。私の会社の強みは、経験豊富な多くのメンバーにより、かなり広い領域に対応できることです。

 ものづくりには幅広い知見が必要です。1年に1度くらいは知見の棚卸しを行うとよいでしょう。ここで、必要な知見の例を紹介しましょう。

 この連載の第1回で、品質不具合を未然に防ぐための代表的な活動である「DRBFM(故障モードに基づく設計審査)」に参加するメンバーの選定について取り上げました。メンバー選定は、複数の人が参加しさえすれば何とかなるというほど甘くはありません。DRBFMの効果は、参加するメンバーのレベルに大きく依存するからです。

 例えばDRBFMでコンポーネントを取り上げるなら、その固有技術の観点から、設計はもちろん、生産技術や品質、生産などの従事者が参加する必要があります。また、各種要素技術の観点からは、例えば材料(鉄鋼や非鉄、樹脂、ゴムなど)や加工(プレス加工、ダイカスト、冷間鍛造、切削など)、接合(ねじ止め、接着、かしめ、溶接など)、表面処理、はんだ付け、さらには生産システムなど、必要に応じて多方面からメンバーが参加しなければなりません。

 こうしたメンバーが集まって「気付き」を行います。気付きとは、故障モードとその原因を抜けや漏れなく抽出し、品質不具合が起こらないように対策を講じることです。そのためには、メンバーの総知や総力を注がなければなりません。

故障現象を30ケース出せるか

 樹脂製部品を例にとると、樹脂にこうしたストレス(応力)が加わるとこのように壊れるという「故障現象」を、いかに多く挙げられるかが問われます。

  • クリープによる変形や破壊
  • 継続的な圧縮荷重によるへたり
  • 繰り返し荷重による疲労破壊
  • 熱による強度低下
  • 熱劣化による寿命低下
  • 吸湿による強度低下
  • 加水分解で強度低下
  • 環境応力割れ
  • トラッキングによる絶縁破壊
  • 電磁妨害(EMI)
  • インサート成形品の冷熱ストレスクラック

──などなど。

 こうした故障現象を30ケースほど書き出せれば「まあまあだ」と思ってください。DRBFMでは樹脂製部品に関する気付きだけでも、これほど多くの知見が必要なのです。対象が異なれば知見も変わります。品質不具合の未然防止には多くの知見を踏まえなければならないことが分かるでしょう。

 品質不具合の発生を抑えることは言うまでもなく、設計の目的は競合企業よりも優位に立ち、かつ利益を確保することです。そのためには、さらに多くの知見が必要となります。それらを少し書き出してみましょう。

競合に勝つために必要な知見

[1]技術

  • (1)固有技術:その製品のネック技術(顧客のニーズを満たすために必要な中核技術)、機能を達成する固有の技術、製品固有の設計技術など
  • (2)共通技術:製品が異なっても共通する設計手法〔例)市場環境条件をベンチ(試験装置)加速試験条件に置き換える方法や、安全設計の基本的な考え方など〕
  • (3)材料:選定に必要なポイント(金属、樹脂、ゴム、はんだなどをグレード別に、特徴や物性値、応力、熱やオイルなどのストレスから受ける影響などを踏まえて正しく選べること)
  • (4)加工:プレス加工、切削、樹脂成形、鍛造、ダイカストなど、製造上の制約条件を考慮した設計に反映すべきポイント
  • (5)共通部品:ボルト、ナット、リベット、Oリング、接着材、ポッティング材など汎用的に使う部品の知識

[2]専門技術

大規模システム化、情報通信高度化、人間視点での開発など設計の高度化、複雑化への対応

[3]品質技術

  • (1)過去の失敗からの教訓(過去トラ):類似製品や関連要素技術の過去の失敗事例と、失敗事例から学ぶ、技術上・管理上の教訓
  • (2)品質ツール
  • 多くの品質手法の中から必要な手法を有効活用できる
  • 形式ではなく内容の伴う解析ができる〔例:DRBFM、FTA(故障の木解析)〕、プレゼンテーション力(まとめる力)
  • デザインレビュー(設計審査、DR)や決裁会議などでは必要十分な内容を分かりやすくまとめる
  • 分かりやすく発表する
  • 仕組み(ルール)の熟知:設計プロセスなど設計ルールの狙いと内容の十分な理解(実行は言うまでもない)

 このように、設計者は多くの知見を持たなければならないのです。知見があれば、知恵を生み出せる可能性が高まります。設計とは、知見を踏まえた知恵の勝負です。そのため、足りない知見を認識する必要がある。そのため、必要と思う知見を書き出すと、埋めなければならない部分が見えてきます。