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 大手クラウドベンダーは学習済みの汎用的な機械学習モデルに追加学習させるタイプの人工知能(AI)開発支援・実行サービスを提供している。いわば「追加学習型クラウドAIサービス」だ。このサービスを活用すれば、独自のモデルを少ない工数で比較的容易に開発できるという。実際にはどうなのか。今回は建設や不動産、再生エネルギー、農業などを手掛けるトーヨーグループの持ち株会社、トーヨーホールディングスの事例を通して探る。

 「PoC(概念実証)で10枚ほどの画像を追加学習させた段階で、画像認識モデルによって十分な予測精度を出せそうだと分かった」。こう語るのは、トーヨーホールディングスの高橋優太R&Dセンターセンター長だ。同社は農業支援システムの研究開発の一環として、Google Cloudが提供する追加学習型の画像認識AIクラウドサービス「AutoML Vision」を活用し、レタス栽培支援の画像認識モデルを開発した。育成不良の苗を検知する「生育不良検知モデル」、葉の表面に白いカビが生えるうどんこ病にかかった苗を検知する「病害検知モデル」だ。

 水耕栽培におけるレタスの育成不良は根が水につかっていないことなどが原因だ。早期に検知できれば回復できるため、モデルの果たす役割は大きい。開発した生育不良検知モデルの判定精度は98%以上になったという。また、うどんこ病の検知は農場で5年以上レタスを栽培しているベテランでも難しいというが、病害検知モデルは判定精度97%を達成したとしている。モデル開発チームの1人、R&Dセンターに所属する菊地海砂氏は2つのモデルによって「農場におけるレタスの生育・病害状況確認作業の工数を98%削減できた」と話す。

 Google Cloudの画像解析クラウドサービス「Cloud Vision API」を活用し、農場を自動走行してレタスの写真を撮影する機器も開発した。レタスを栽培する棚に位置情報が分かるラベルを貼付しておき、デバイスに搭載したOCR(光学式文字読み取り)機能によって撮影地点を認識する仕組みだ。

 さらに新しい画像認識モデルとして、撮影したレタスの画像から重量を判定し収穫時期を予測する「収穫予測モデル」を現在開発中である。菊地氏は「画像認識モデルによって事業リスクの低下や農作業の削減につながっている。詳しい成果はこれから算出していく」と説明する。生育不良検知モデル、病害検知モデル、収穫予測モデルを組み込んだシステムを2023年1月に販売する予定だ。

トーヨーホールディングスが開発するレタス栽培支援の3つのモデル
トーヨーホールディングスが開発するレタス栽培支援の3つのモデル
(出所:トーヨーホールディングス)
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