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(写真:Shutterstock)
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 自動車産業には2030年ごろに転機が訪れる。その時を見据えた戦略が重要だ。それは「2030年までにどれだけEV化できるか」などということではない。

 本当の勝負はその時期にやって来るという意味だ。最大のテーマは「2030年代前半までのEVのデスバレー」をどう乗り切るかにある。

 投資市場では、EV化が進んでいる企業の株価が上がる傾向にある。しかし、EV市場は間違いなく「レッドオーシャン化」する。

 2021年4月の上海国際自動車ショーでは、世界の大手自動車メーカーが一斉にEV戦略を披露した。トヨタ自動車も2025年までに15車種のEVを販売すると発表。仏ルノーに至っては、2030年までに「新車販売台数の9割をEVにする」とした。

 世界中の自動車メーカーが公表通りにEVの割合を増やすと、2030年ごろの新車販売に占めるEVのシェアは半分を超えるだろう。

 しかし、世界で一番多くのEVが普及している中国でも、2025年のEVなどの新エネルギー車の販売台数割合の目標は20%なのである。2035年には新エネ車を50%にし、そのうち95%をEVにするとしているが、その後の目標は発表していない。

 中国はEVの普及で先行するだけでなく、圧倒的な充電インフラを有しているから大量のEVを受容できる。その中国でさえ、2030年に半数をEVにするとは言っていないのだ。

EVは利益率が低い

 需要に対してEVが供給過多になれば、価格競争が激しくなることは避けられない。今でもEVの利益率は低い。蓄電池のコスト高もあり、ほとんどのメーカーがEVで利益を出せていないという。

 先行者プレミアムを付けた価格で販売してきた米テスラですら、最近になってようやくEV販売で利益が出るようになった。有力メーカーがこぞってEVを発表したことで、価格を下げざる得なくなれば、テスラでさえ再び不採算になる可能性も十分にある。既に米国では新興EVメーカーの過大な事業計画と現実との乖離(かいり)が顕在化している。

 仮に、中国政府が目指すように2035年に新車販売の半数近くがEVになったとしても、それまでの道のりが過酷である可能性は極めて高い。

 EVに注力しすぎたメーカーは、激化する競争の中で、数年間にわたって大きな負債を抱えることになる。レッドオーシャンを何とか泳ぎきったとしても「2030年代以降の市場に向けた財務余力がほとんどない」という状況に陥る可能性が高いのだ。

航続距離は電池次第

 現在のEV市場はバブル状態にある。他の実績ある自動車メーカーが束になっても及ばないテスラの時価総額は、経済的には説明がつかないという指摘も多い。さらに、山積する「未解決の問題」が真剣に語られていない。経済的に説明がつかない株価と、議論すべき課題が語られないのはバブルの特徴だ。

 EV普及の前に横たわる未解決の問題は多様だ。課題だった航続距離については、500㎞程度を確保したことで問題視されることが少なくなった。しかし、これはあくまで「エアコンをつけずに平地を走った場合」という条件付きの走行距離だ。

 例えば、冬場に東京から軽井沢に行こうとしたら、ヒーターの使用と標高1000mまでの上り坂により航続距離は半減する。ガソリン車が50リットルタンクを満タンにすると、電力換算で500kWh近いエネルギーを搭載することができる。これは一般的なEVの蓄電池容量50kWhの10倍のエネルギー量だ。

 モーターの方がエンジンよりもエネルギーを駆動力に変換する効率が3~4倍高いことを考慮しても、EVの実質のエネルギー搭載量はガソリン車の3分の1程度になる。

 冬場、ガソリン車が排熱でヒーターの熱を賄えるのに対して、EVは電気を使わなくてはならないので、走行に回せるエネルギーが少なくなる。ただし、3倍程度のエネルギー搭載量の差は、全固体電池が実用化されれば解消できるめどはある。