DX(デジタル変革)に必要な人材を社内で育成する「リスキリング」。キヤノンや住友生命保険など、DXの先進企業が続々と着手し始めた。DXのコア人材だけでなく全社員を対象にするケースも増えている。
「研修期間中は夢の中でもプログラミングをしていた」──。キヤノンのイメージソリューション事業本部イメージソリューション第一事業部IIS事業推進センターに所属する世永萌香氏は、現在のDXにかかわる職務につく前に受けた研修をこう振り返る。
世永氏は大学の文系学部から新卒でキヤノンに入社して7年目。入社時はエンジニアではなく、キヤノンのフォトブックサービス「PhotoJewel S」の販売推進を担当した。
転機が訪れたのは入社5年目だ。世永氏は同社内にあるソフトウエア技術者の育成組織「Canon Institute of Software Technology(CIST)」の存在を知り、もともと技術に興味を持っていたこともあってキャリア転換を決断。CISTでの4カ月間の研修を経て、2020年9月にエンジニアとして現所属の部署に異動した。
現在は、ネットワークカメラのユーザーインターフェースを中心とするアプリケーション開発を担当する。新サービスや新機能を生み出す仕事に「やりがいを感じている」と世永氏は話す。
デジタル人材の社内育成が潮流に
多くの日本企業がDXの取り組みを加速させる中で、社員に新たなデジタル関連の知識や技術を習得させようとする動きが活発になっている。いわゆる「リスキリング」だ。
企業のリスキリングの取り組みに詳しい多摩大学大学院の徳岡晃一郎教授は、「デジタル人材の必要数は多く、外部雇用が難しい。大幅に不足している現状を打開するには、社内育成しかない」と指摘する。
先述したキヤノンは街角や工場の監視などに使うネットワークカメラの事業に注力している。最近は特にカメラ映像を解析して不審者を発見したり、店舗での売り方の改善につなげたりといったソフトウエアの重要性が増した。そこで既存のエンジニアのスキルアップに加え、非デジタル人材を対象にしたリスキリングを積極的に進めている。CISTを設立した2018年から現在までに、約140人がソフトウエア開発者へ職種を転換した。
徳岡教授によると、企業のリスキリングの取り組みは大きく2段階に分かれるという。第1段階は、コア人材やその候補となる人材のリスキリングだ。業務知識とデジタルスキルを兼ね備えDXをけん引する人材や、DXによってつくり出した新しい業務を遂行・改善する人材を育成する。