10m以上先のスマートフォンやさまざまなIoTデバイスに給電可能な技術が、いよいよ2021年度内に日本で解禁となる。総務省が法改正によって、新たな無線給電の仕組みである「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」を日本で使えるようにする予定だからだ。目指すのは、気付いたら部屋の中でスマホが充電されているような世界。わずらわしい充電ケーブルや電池交換を不要とする新たな市場が生まれようとしている。
「利用者がどこにいても、盗難防止用のICタグなどのIoTデバイスに給電できるように、ミリ波通信と無線給電を連携・融合した技術開発に取り組む」。こう意気込むのは、ソフトバンクの担当者だ。
同社と京都大学、金沢工業大学の研究チームは2021年11月12日、5G(第5世代移動通信システム)に使う28GHz帯(ミリ波帯)の周波数帯を活用し、通信と無線給電を連携・融合した技術開発に取り組むと発表した。ここで活用する給電技術こそ、総務省が21年度内に法改正して活用できるようにする10m級の無線給電技術だ。
ソフトバンクが描くビジョンは、通信のみならず電力も無線で伝送するという完全ワイヤレスな世界だ。5G時代が本格化するに伴い、膨大な数のIoTデバイスが社会に設置されるようになるだろう。これらのデバイスを稼働させるために、電池を定期的に交換することになると大きな手間がかかる。通信と同じように電力も無線で離れた場所に届けられれば、バッテリーの問題を気にせずIoTデバイスを気軽に設置できるようになる。同社は、他の通信システムとの電波干渉が少ない28GHz帯で、最終的には「基地局の周囲100mの範囲まで給電」(同社)できるようにする技術を開発したいとする。
まずは屋内限定、10m級無線給電を解禁
無線給電は、ケーブルなどを用いることなく離れた場所にある機器に対して充電できる技術だ。無線給電は、電力の伝送距離が数mmから1m程度の「近接接合型」と、10m以上離れた機器に充電可能な「空間伝送型」の2種類に大別できる。
近接接合型では、スマホの無線給電に使われる「Qi」などの商用化が既に進む。Qiは古くから実用化されている電磁誘導方式を活用した無線給電方式だ(図1)。
21年度内に、10m以上離れた機器に充電可能な「空間伝送型」が新たに国内で解禁になる。マイクロ波の振動を電波に載せて給電する方式だ。
送電機側で電力を高周波(マイクロ波)に変換。電波を使って、この振動を遠隔の受電機に送る。受電機側は、アンテナで受信したマイクロ波の振動を再び電気に変換し、対象となる機器に給電する(図2)。