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 「有線通信が主流だった時代は、無線LANは普及しないといわれていた。同じように充電もケーブルがない世界を実現できる」――。こう意気込むのは、米スタンフォード大学発のスタートアップ企業であるエイターリンク 代表取締役 CTO(最高技術責任者)の田邉勇二氏だ。同社は2021年11月、最大20m先のIoT(Internet of Things)デバイスに無線給電できる技術を製品化した。同年11月末には、大手建設会社が手掛けるオフィスビルへの先行導入を予定する。同社は医療分野から無線給電分野へ参入し、国内の市場をリードしている異色の存在だ(図1)。

図1 マイクロ波無線給電を手がけるエイターリンクが、2021年11月に製品化(撮影:日経クロステック)
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図1 マイクロ波無線給電を手がけるエイターリンクが、2021年11月に製品化(撮影:日経クロステック)

スタートアップが技術開発、20m先のデバイスに数mW給電可能

 エイターリンクが21年11月に国内で先駆けて製品化したのは、総務省が21年度内の法改正で国内解禁を予定する、マイクロ波を使った無線給電システムだ。

 マイクロ波を使った無線給電システムの特徴は、10m以上離れた場所にあるデバイスに対して、電波を通じて給電できる点だ。エイターリンクが開発する製品は、20m先のデバイスに対して、数mWの給電ができる。送電機側で電気を高周波(マイクロ波)に変換。電波を使って、この振動を遠隔の受電機に送る。受電機側は、アンテナで受信したマイクロ波の振動を再び電気に変換し、対象となる機器に給電する仕組みだ(図2)。

図2 マイクロ波無線給電の仕組み
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図2 マイクロ波無線給電の仕組み
送電機は電気を高周波に変換し、送電アンテナを通してマイクロ波を伝送する。受電機は受電アンテナで受け取ったマイクロ波を電気に再度変換。受電電力で対象に給電できる。送電器・受電器間の給電効率は2021年11月時点で最大数%程度にとどまる。(出所:京都大学教授の篠原真毅氏の資料を基に日経クロステック作成)

 「21年4月にマイクロ波無線給電システムの実証実験に成功した発表をした際には、500件以上の問い合わせがあった。現在は複数の企業と導入に向けてプロジェクトを進めている。22年以降は工場向けでも量産開始予定だ」と同社 代表取締役COO(最高執行責任者)の岩佐凌氏は打ち明ける。

 そんなエイターリンクが開発する無線給電システムは、大手建設会社が手掛けるオフィスビルの、ビルマネジメント用途への先行導入が決まった。

 具体的には、オフィスビルの椅子に備え付けた電池レスの人感センサーに対し、オフィスの天井に約6m間隔で設置したマイクロ波を使った無線給電の送電機から電力を送る。稼働した人感センサーが、どの位置に人がいるのかを検知し、最適な位置へと風を送るように空調制御に活用する(図3)。

図3 21年11月には大手建設会社に納品予定で、空調制御に用いる(出所:エイターリンク)
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図3 21年11月には大手建設会社に納品予定で、空調制御に用いる(出所:エイターリンク)

 ビルマネジメントの分野では、オフィス環境を最適に保ちつつ、空調のコストを抑えるために、温度や湿度、騒音などを検知できるIoTセンサーをオフィス内に設置するケースがある。これまではIoTセンサーを稼働させるための電源配線コストがかさみ、多数のセンサーの設置が難しかった。エイターリンクの無線給電システムは、同時に100台以上の電池レスIoTセンサーに対して電力を伝送できる。配線コストがいらなくなるため、大きくコストを下げられるという。