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 10m以上先の機器に充電可能な無線給電技術が2021年度内に国内解禁になる。それを受けて、東芝や米Ossiaといった企業も虎視眈々(たんたん)と市場参入を狙っている。これらの企業が力を入れているのが、人体への安全性を高めるための技術だ。Ossiaと東芝は、無線給電用の電波が人体に当たらないようにする技術を開発。それぞれ異なったアプローチで安全性をアピールし、23年ごろの製品化を目指している(図1)。

図1 3つの周波数帯を設定し、それぞれに参画企業が所属する
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図1 3つの周波数帯を設定し、それぞれに参画企業が所属する
総務省は空間伝送型無線給電の周波数帯を3つの周波数帯に定める。日本国内で電子レンジなどに割り当てられるISMバンドと同様の920MHz帯と2.4GHz帯、5.7GHz帯。制度整備に先駆けて2021年11月、 国内でまず920MHz帯の製品が登場している。(出所:パナソニックや丸文、東芝への取材内容を基に日経クロステック作成)

 21年度内に国内で新たに解禁になる無線給電は、マイクロ波の振動を電波に乗せて給電する方式だ。総務省は920MHz帯と2.4GHz帯、そして5.7GHz帯で、マイクロ波方式の無線給電を使えるように規制緩和する。

 無線給電では、電力を電波に乗せて空間を飛ばすため、人体への影響を考慮しなければならない。人体が強力な電磁波を長時間浴び続けると、皮膚などに熱を帯びたり、神経や筋に刺激が生じたりする場合がある。総務省もまずは人体への安全性を考慮し、21年度には無人・屋内環境を中心に解禁。有人環境での使用を認めたのは、送電電力が1Wと微弱な920MHz帯のみとした。

 2.4GHz帯や5.7GHz帯は、数十W規模の送電電力を認めている。送電電力が大きいため、21年度の制度改正では、人体への影響を考慮し、無人工場などの環境に限定した。さらに、これらの周波数帯で無線給電を扱う企業には無線従事者の資格保有者がいる必要がある。2.4GHz帯と5.7GHz帯についていえば、21年度内の規制緩和は、試験的な解禁といった位置づけになる。

 関係者が、10m級無線給電の本格化のタイミングとして捉えるのが、総務省が次に規制緩和する予定の23年度から24年度の期間だ。同年度以降、屋外環境のほか、2.4GHz帯と5.7GHz帯の有人環境についても利用を解禁する計画だ。

 東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所 ワイヤレスシステムラボラトリーの鬼塚浩平氏は、「21年度以降、マイクロ波を使った無線給電方式は、こういうシーンで有効、という認識が世の中に広がっていくだろう。事業的ボリュームとしては、23年度ごろからが本命になる」という認識を示す。

「人体を避けられる機能」を実装

 総務省は比較的大きな電力を送電する2.4GHz帯と5.7GHz帯について、人体を守るために、電波防護指針の指針値を超える範囲に人が立ち入ったことを検出し、送信を止める機能を求めている。「2.4GHz帯の場合、約5m以内の範囲に立ち入った場合に人感センサーなどで検知できるようにする。送信が即座に止められる環境であれば、完全な無人環境でなくとも使えるという意味でもある」とOssiaと提携する丸文 ディオネカンパニー 主任の河村亮介氏は説明する。

 そこで2.4GHz帯にて無線給電市場参入を狙うOssiaや、5.7GHz帯にて同じく参入を計画する東芝は、人を避けて電力を届けられる仕組みの開発に力を入れる。