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 「電気が空気のように漂う世界を目指したい。放っておいたら少しずつスマートフォン(スマホ)が充電されていくイメージだ」――。

 このように語るのは、長年にわたって無線給電技術を開発している京都大学 教授の篠原真毅氏だ。

 10m以上先の機器に充電可能な無線給電技術が2021年度内に国内解禁となる。当初給電できる機器は数mW以下で駆動するIoT(Internet of Things)デバイスなどに限られるものの、段階的に規制緩和し、25年度以降はスマートフォンやドローンなど大電力が必要な機器も視野に入る。給電効率が数%という高い壁を乗り越え、10m級無線給電は日常的な技術になれるか。

中国Xiaomi、スマホ向けで攻勢

 21年度内に国内解禁となる無線給電は、マイクロ波の振動を電波に乗せて給電する仕組みだ。まずは数mW以下で駆動するIoTデバイスに向け、23年度ごろからウエアラブル端末、そして25年度以降にはスマホやドローンなどと段階的に対象を広げていく。無線給電は、電力を電波に乗せて空間を飛ばすため、人体への影響を考慮する必要がある。そのため総務省は慎重に段階的に規制緩和を図る。

 慎重な日本を尻目に、海外に目を向けると、早くも大電力用途の無線給電開発が活発になっている。スマホ向けの10m級無線給電の製品化で、先陣を切るとみられるのが中国や米国勢だ。

 例えば中国Xiaomi(小米、シャオミ)は21年1月、数m先のスマホに5Wで給電できる技術を発表した。5Wまで受電電力を高められれば、スマホ用途も十分視野に入る(図1)。

図1 シャオミは数m先にあるスマホやスマートウオッチ、照明にケーブル接続なしで給電できる技術を発表している
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図1 シャオミは数m先にあるスマホやスマートウオッチ、照明にケーブル接続なしで給電できる技術を発表している
(出所:シャオミ)

 シャオミが開発する技術の仕組みはこうだ。まずスマホから微弱なビーコン信号を送電機側に発信し、スマホの位置を特定する。送電機は無線給電用のアンテナ素子を144個搭載しており、特定したスマホの位置をめがけて電波を絞ったビームフォーミングを使って給電する。スマホ側は、14個のアンテナ素子を搭載する受電機を内蔵する。

 同社がスマホ向け無線給電を実現するために活用するのが、ミリ波帯(30GHz帯から300GHz帯)の電波だ。これまでのマイクロ波方式の無線給電製品は5.7GHz帯までの周波数が主流だった。日本で規制緩和して利用できるようにするのも、920MHz帯と2.4GHz帯、5.7GHz帯という3つの周波数帯だ。

 ミリ波帯の利点は、電波の空きが多く、マイクロ波の振動を乗せる送電用の帯域幅を広く確保しやすい点である。帯域幅を広くすることで、大電力を送りやすくなる。「シャオミは製品化時期を公開していないが、数年以内には製品化されるのではないか」と京大 生存圏研究所 生存圏電波応用分野 教授の篠原氏は予測する。

 もっともシャオミの技術は、大電力化に伴う人体への影響をどのように考慮しているのかなど、詳細はまだ明らかにされていない。

ミリ波で視野に入るドローン用途

 ミリ波帯を使った大電力用途の無線給電に取り組むのはシャオミばかりではない。国内では筑波大学がミリ波帯を使った大電力用途の無線給電の研究開発に取り組む。筑波大学 システム情報系 構造エネルギー工学域 助教の嶋村耕平氏は、「ミリ波帯を活用することで、ドローンや空飛ぶクルマ用途の無線給電を実現できる」と力を込める。