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電力を位置エネルギーとして貯蔵するという点では揚水発電と同じなのが、古くて新しい蓄エネルギー技術「重力蓄電」だ。エネルギー密度は揚水発電と同様に非常に低いが、それ以外の、発電コストの低さや耐久性の高さ、損失の少なさ、そして建設期間の短さなど多くの点で優れた点が多い。提案されている実現手法は実にさまざまで、利用場所も空中、地下、海中と多岐に渡る。既に投資家の支持を得て事業化を進める例も出てきた。

 電気エネルギーを位置エネルギーに変換する点で揚水発電と同じだが、立地制約や損失の多さなどの揚水発電の幾つかの課題を軽減した「重力蓄電」システムも続々とベンチャーが登場している。

 その先頭を走るのがスイスEnergy Vaultだ(図1)。既に事業化を着々と進めている。同社にはソフトバンクグループなど複数の投資会社が出資しており、2021年9月には米国の株式市場に上場を決め、顧客の1社も公表した注1)

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図1 重力蓄電は2022年半ばにTeslaの蓄電池システムと同水準の単価で本格スタート
図1 重力蓄電は2022年半ばにTeslaの蓄電池システムと同水準の単価で本格スタート
Energy Vaultの重力蓄電システム(a~c)。実証用システムは巨大なクレーン型だったが、2022年半ばに米国ルイジアナ州で稼働する500MWh規模の商用システムは巨大な自動倉庫といえる。廃材などで造るコンクリートブロックを重りとして上げ下げすることで“充放電”するのは変わらない。既に、グリーン燃料を製造するDG Fuelsと、計1.6GWh分のシステムの導入で契約した。総額5.2億米ドルで、単価は325米ドル/kWh。これは米Teslaの蓄電池システムと同水準である。(写真:Energy Vault)
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注1)上場は「SPAC(Special Purpose Acquisition Company)」と呼ばれる専門の上場済みの企業に買収されるいわゆる逆さ合併。2022年前半には正式にニューヨーク証券取引所(NYSE)に参加を認められる予定だ。

 公表した顧客は米DG Fuelsというグリーン燃料のメーカーで、自ら導入した大規模太陽光発電システムの平準化にこの重力蓄電システムを用いるという。契約容量は計1.6GWh分。2022年半ばにはまず500MWhのシステムが米ルイジアナ州で稼働し、カナダのブリティッシュコロンビア州、米オハイオ州と続く。

 システムは小規模とはいえないが、建設期間は約半年。揚水発電にはまねできない短さだ。初期投資額の単価は米Teslaの蓄電池システムと同水準。今後、さらに下がるのであれば受注に拍車がかかりそうだ。