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再生可能エネルギーの電力で水を電気分解することで得らえる「グリーン水素」は、電力貯蔵のためだけでなく、さまざまな燃料や化学材料の原料として幅広く使われる見通しだ。こうした、電力部門(セクター)を超える水素の用途の広がりは、「クロスセクター(cross sector)」または「セクターカップリング(sector coupling)」などと呼ばれる。国内でもこうしたクロスセクターの動きが本格化しつつある。

 東レとは別に、PEM形水電解で利用するセルスタックを印刷由来の技術で大量生産し、水電解装置の大幅な低コスト化、ひいてはグリーン水素の価格の大幅引き下げを狙うのが東京ガスだ。同社は自ら供給する都市ガスのうち、天然ガス(CH4)を2050年までにすべてグリーン水素由来の「合成メタン」に置き換えようとしている(図1)。ただし、「実現のためには、日本ではまだ高止まりしているグリーン水素の生産コストを大幅に引き下げる必要がある」(東京ガス デジタルイノベーション本部 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 水素・カーボンマネジメント技術グループ グループマネジャーの高畑和己氏)。

図1 水電解の出口は合成メタン
図1 水電解の出口は合成メタン
東京ガスの脱炭素化計画(a)と生産技術の内製化を進める実証実験の計画(b)。2050年CO2ネットゼロを掲げる東京ガスは、現在の天然ガスを2050年までにグリーン水素由来の合成メタンにすべて置き換えることを目標とする。2022年3月に開始予定の実証実験では、再生可能エネルギーから合成メタンをつくる一連のプロセスを検証する。各ガスや生産設備は当初は外部調達だが、段階的に内製化し、2030年以降、商用化を進める方針である。(図:日経クロステック)
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 東京ガスはこれを他力本願でなく、自社開発の技術で実現しようとしている。その戦略はこうだ。まず同社がこれまで開発し、実用化済みの固体高分子形燃料電池(PEFC)の技術を水電解に転用する。さらにそのセルスタックの量産技術を、半導体装置メーカーのSCREENと共同で、電子デバイスを安く大量生産する手法であるRoll to Roll(R2R)方式で開発する。