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水素吸蔵合金や吸蔵材料でも次世代技術が複数登場してきた。1つはチタン鉄(Ti-Fe)系合金よりもさらに低コスト化が見込めるアルミニウム(Al)とFeから成るAl13Fe4である。この合金の発見は、水素吸蔵合金開発の従来の定石や常識を覆した。実用化へはまだ課題があるが、乗り越える道筋は見えているという。さらに、ノーベル賞候補との下馬評もあるMOF(金属有機構造体)ベースの水素吸蔵材料も数年で実用化を見込む。

 量子科学技術研究開発機構(QST)の齋藤寛之氏らは、アルミニウム(Al)とFeから成る新しい水素吸蔵合金「Al13Fe4」を開発した(図1)。実用化できれば、Ti-Fe系以上に水素吸蔵合金の低コスト化が実現できるが、インパクトは安さだけではない。この合金の発見は、水素吸蔵合金開発における従来の定石や常識を覆すものだという。

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図1 鉄とアルミの合金に水素を吸蔵する
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図1 鉄とアルミの合金に水素を吸蔵する
量子科学技術研究開発機構(QST)の齋藤寛之氏らの研究グループが開発した水素吸蔵合金の特徴。これまでの水素吸蔵合金は、2種類の類型があり、そのいずれでも、水素化しにくい金属と、水素化しやすい金属を組み合わせるのが定石だった(a)。一方QSTは、共に水素化しにくいFeとAlの合金でも水素吸蔵できることを発見した(b)。FeもAlも豊富な資源であり、Ti-Fe系よりも材料費が安い。ただし現状では、水素吸蔵に7万気圧という高圧が必要である。これは合金表面に酸化膜が発生するためだ(c)。改善に向けた見通しは立っており、現在1気圧での吸蔵を目指して研究開発を進めている。(図と写真:(a)は日経クロステック、(b)の写真と図は量子科学技術研究開発機構の齋藤寛之氏、(c)は齋藤氏提供の写真に日経クロステックが加筆)

 これまで水素吸蔵合金の開発では、こうやるべし、という大きく2つの“定石"があった。1つは、「侵入形」と「錯体水素化物形」という2種類の材料構造の類型から選択すること。もう1つは、どちらの類型の場合でも、「水素化しやすい金属」と「水素化しにくい金属」から1種類ずつ、計2種類の金属を選ぶことである注1)

注1)水素化しやすい金属のみだとH2放出時に大きなエネルギーが必要となり使いにくい。逆に水素化しにくい金属のみでは、そもそもH2を吸蔵しない。

 Al13Fe4は2つの定石のどちらにも当てはまらない。H2の吸蔵メカニズムは、侵入形でも錯体水素化物形でもなく、「吸蔵のメカニズムは未解明」(齋藤氏)としている。「ただ、H原子とFe原子との間で共有結合が起きている可能性が高い」(齋藤氏)。AlとFeはいずれも水素化しにくい金属なので、上述の2種類の金属の選択の定石にも反する注2)

注2)従来と異なる吸蔵メカニズムを持つことが、AlとFeのペアでも水素化できるようになった要因だと同氏は推測している。

 課題は、7万気圧以上、650℃以上という超高圧高温下でしかH2を吸蔵しない点だ。原因は、合金表面のAl原子に酸化膜が形成し、H2の合金内部への侵入を妨げているためだ。ただし、この課題は表面改質で改善可能だと判明している。1気圧での吸蔵を目標に研究開発をしている。