化粧品業界は新型コロナ禍で急激にデジタル化が進んだ業界の1つだ。これまで、化粧品各社の中でも上位ブランドは百貨店の一角や旗艦店に専用のカウンターを設け、店舗に所属する美容部員が顧客に対面で接客をするのが一般的なスタイルだった。各ブランドのカウンターでは美容部員が指定の商品を使って顧客の顔にメークを施す「タッチアップ」を行う。顧客は色味や自身の肌の上での発色などを確認し、お勧めの使い方のレクチャーを受けて購入に至るケースが多かった。
こうした光景はコロナ禍で一変した。人の肌に触れるタッチアップができなくなり、対面での接客が制限された。そもそも百貨店を訪れる客自体が減った。
事態を打開するため、化粧品各社は顧客の悩みや要望に合わせて商品や使い方を案内するといった接客のオンライン化を進めている。現物を見ずにEC(電子商取引)サイトなどを介して「ノールック」で購入する顧客に対して、デジタルの力を使って自社商品の魅力を伝え、顧客の購買行動につなげる狙いだ。

資生堂は専門人材を育成
「現役美容部員が本気推し!ヘビロテ商品大集合」「冬が来る前に!私にぴったりな保湿メイク」。資生堂が提供するオンライン接客サービスのテーマだ。オンライン接客専任の美容部員(BC)であるオムニBCが企画した。BCがテーマに沿って同社の商品の効果的な使い方をライブ配信で紹介する。
SNS(交流サイト)や同社公式サイトなどを通じて配信する。ライブ配信中、BCが商品を紹介するタイミングで画面上にECサイトへのリンクを表示し、視聴者に商品の購買を促す仕組みも設けている。
店頭で行えなくなったタッチアップについては、代わりに公式Webサイト「ワタシプラス」上にバーチャルメーキャップサービスを用意した。利用者はスマートフォンなどのカメラで写した自身の顔写真やサイトにアップロードした顔写真に、画面上で化粧を施して仮想的に試用できる。対象の商品は「マキアージュ」をはじめとする7ブランド、約600種類だ。
特に商品の色味を実物の発色に近づけるために、ブランド担当者の肌にのせた色と画面に映る色を比べながら細かく調整したという。同サービスでも画面上にECサイトへのリンクを表示するので、顧客はバーチャルで試した商品を気に入ればそのままECサイトで購入できる。
2021年11月中旬からはエイジングケアブランドである「エリクシール」の商品を購入した顧客を対象に、オンラインでのコミュニケーションプログラム「ONLINE BEAUTY STUDIO」を提供している。参加者はオンラインセミナーやスマートフォンによる肌測定、BCからのLINEチャットでのアドバイスのほか、参加者同士の情報交換の場としても活用可能だ。
コーセーはオンラインカウンセリングの新システムを構築
コーセーはオンラインカウンセリングを軸にブランドの特性に合わせたサービスを展開する。「デジタルならではの価値を提供してリアルを超える接客を実現する」(コーセーの進藤広輔情報統括部グループマネージャー)ための「WEB-BC SYSTEM」をAmazon Web Services(AWS)で構築した。カウンセリング予約システムや「KOSE ID」、デジタルカルテ、デジタルパンフレットなどの共通機能、「肌診断」「肌色分析」などの個別機能をマイクロサービスとして実装し、BCがカウンセリング中にブランドに合わせて必要な機能を持つアプリを呼び出せる仕組みだ。
