トヨタ自動車が静岡県裾野市で着工した「ウーブン・シティ」など、国内外でスマートシティーに再び注目が集まっている。しかし日本のスマートシティーに黄色信号がともる。実証実験レベルで止まってしまう技術開発や、首をかしげてしまう導入アプローチが多いからだ。欧州では既にスマートシティーの議論が一段落し、実際に街に技術を取り込み始めている。新興国も成功したスマートシティーの事例から学びつつ、猛スピードで開発に急ぐ。日本のスマートシティーはこのままでは周回遅れになりかねない。
「日本のスマートシティーの取り組みは欧州と比べて3~4年遅れている。これから3~5年が開発の勝負になる」――。三菱UFJリサーチ&コンサルティングソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部社会イノベーション・エバンジェリストの中島健祐氏は日本の現状をこのように語る。
同氏は国際連合の電子政府ランキング*で1位になったデンマークの外務省Invest in Denmarkで、対デンマーク投資支援業務に従事した経歴を持つ。国内のスマートシティービジネスの第一人者だ。
スマートシティーはさまざまな技術を駆使し、都市が抱える課題を解決したり、埋もれていたデータから新たな価値を生み出したりする取り組みである。エネルギー効率化のための管理技術のほか、効率的な交通手段を提供するためのMaaS(Mobility as a Service)、煩雑な行政サービスのデジタル化など、あらゆる技術の集合体でもある。こうしてスマートシティー開発を通じて培った技術は世界各国へと輸出することができるため、自国での取り組みの成否が、将来的に国際競争力の優劣につながる可能性がある。
世界でスマートシティーの取り組みがスタートしたのは、先を進む欧州も日本もほぼ同じ2010年ごろからだ。増大する消費エネルギーへの問題意識から技術開発が進み、エネルギー以外の街全体の課題を解決していく方向へと発展していった。日本の取り組みが、欧州と比べて差がついたのはその後だ。
「社会実装に結び付かない実証実験が多く、日本のスマートシティーの進捗を遅らせた」と中島氏は指摘する(図1)。行政の補助金で開発を進めるものの、実際に市民の生活を支援できている例が少ないのだ。ここに来て、新興国でも欧州の事例などを基にスマートシティーの取り組みが加速している。中島氏は「新興国は、日本と異なりデジタル技術の展開の足かせになりやすい縦割り行政などの影響が少ない。日本との差が一気に縮む可能性がある」と危機感をあらわにする。