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 「時間が経過してくると、街への転入者が増加し、実施している実証実験を認識していない住民が出てくる。そこで街でお祭りを催して、さまざまな企業と住民の関係を深めたり、スマートタウンの取り組みを理解してもらえたりするような工夫を意識している」――。

 このように語るのは、パナソニックが神奈川県藤沢市で手掛ける「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」にて、街づくりを進めるパナソニックビジネスソリューション本部CRE事業推進部SST推進総括の荒川剛氏だ。同社はこの街の規模から、Fujisawa SSTをスマートシティーではなく、スマートタウンと呼んでいる。Fujisawa SSTは、パナソニック(当時・松下電器産業)の藤沢工場の跡地を利用して2014年に誕生した。そんな同地でパナソニックが挑むのが、住民のデータを活用した新製品・新サービス開発である。街びらきから7年目を迎えたFujisawa SSTの現在に迫った(図1)。

図1 「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」
図1 「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」
1961年にパナソニック(当時・松下電器産業)が藤沢工場を設置。テレビや冷蔵庫などの家電製品を製造する主力工場としての役割を果たした。創業者の松下幸之助氏が1960年代に発生した都市化の社会課題(人口集中など)を解決する一環として地方に工場を建設し、雇用の創出、人口の分散などの地方活性化を狙ったという。その後、工場跡地を利用して街の開発が進んだ。(出所:パナソニック)
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企業と住民が二人三脚

 記者がFujisawa SSTがある「藤沢SST前」のバス停を降りると、歩道に隣接するように太陽パネルが整然と並ぶ様子が目に入ってきた。目の前に広がる住宅街は、すでに街びらきから時間が経過しているものの、いまだに新興住宅街の雰囲気が残っている。少し歩いた先にある街中の商業施設「湘南T-SITE」内には多くの家族連れが訪れており、背丈の小さな子どもが売り物の絵本を興味深そうにのぞき込んでいた。店内から外を見渡すと家庭用燃料電池「エネファーム」を設置した住居が並び、設備の筐体(きょうたい)に「Panasonic」のロゴが躍る。穏やかな日常を通し、企業と住民がともに歩む街の一端が垣間見えてきた。

 そんなFujisawa SSTのスマートシティーとしての最大の特徴は、街全体がパナソニックの新製品・新サービスを生み出すゆりかごになっている点である。具体的にはスマートシティーの市民から協力者(モニター)を募集し、新製品・新サービスに役立てているのだ。