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 KDDIや東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインは2021年11月、実在する都市をバーチャル空間上に再現する「都市連動型メタバース(バーチャル空間)」の推進に当たり、さまざまな権利問題の解決・運営方針を定めていくガイドライン策定を担う業界団体「バーチャルシティコンソーシアム」を設立した(図1)。都市連動型メタバースは仮想的であるものの、デジタル技術を駆使した街づくりという点でスマートシティーに通ずる取り組みだ。メタバースは、スマートシティーの新たな潮流になるか。

図1 「バーチャルシティコンソーシアム」の設立
図1 「バーチャルシティコンソーシアム」の設立
コンソーシアムでの活動を通し、運営上発生する課題や問題を未然に防ぐルールなどを探る。今後都市連動型メタバースを展開しやすい仕組みを整えていく。(出所:日経クロステック)
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 同コンソーシアム設立の中心的な役割を担うのがKDDIだ。同社はこれまで、5G(第5世代移動通信システム)やVR(仮想現実)、AR(拡張現実)などを活用し、ファッションや音楽などに代表される渋谷の文化の強みを引き出す「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」といった取り組みに携わってきた。これらの延長線上で、渋谷の街並みをバーチャル空間で再現する「バーチャル渋谷」に取り組んできた。

 バーチャル渋谷とは20年5月にインターネット上でサービスを開始した、日本で初めて自治体が公認したメタバースの配信プラットフォームだ(図2)。ネットワーク経由で自宅からバーチャル空間上の渋谷で開催されるイベントに参加できる。これまで自宅からユーザーが参加できるハロウィーンイベントなどを開催してきた。

図2 仮想空間上に渋谷の街を再現した「バーチャル渋谷」
図2 仮想空間上に渋谷の街を再現した「バーチャル渋谷」
(出所:KDDI)
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 数年にわたってバーチャル渋谷の取り組みを進める中で、渋谷の街に関係する組織や個人などの権利者とのルール作り・運営手法などが重要になってきた。例えばバーチャル空間で、実際の店舗を模したデザインを利用する取り決めをどうすべきか、といったものだ。そこで、運営上発生する課題や問題を未然に防ぐルールなどを探り、渋谷という街で都市連動型メタバースを展開できるような仕組みを整えていくために、新たにコンソーシアムを立ち上げた。

 そもそも、なぜ手間をかけてまで、都市連動型でバーチャル空間を生み出すのだろうか。都市と連動しなければ、もっと自由にバーチャル空間上で活動できる利点もあるはずだ。

 この点についてKDDI事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部部長の中馬和彦氏は異を唱える。同氏は「渋谷という現実の街を土台にすることで、その街特有の文化を引き継いだバーチャル空間が生まれ、それに魅力を感じた人々が集まってくる。さらに現実の渋谷で披露したイベントなどをバーチャル空間に移転できる」と語る。

 中馬氏は、バーチャル空間ではないものの、以前、渋谷PARCOが建て替え工事の時期に工事用の仮囲いに漫画作品「AKIRA」を描いた例を挙げる。「仮囲いが撤去されると作品も失われてしまう。しかし渋谷エンタメテック推進プロジェクトの一環で当時の展示をARで再現することで、多くの人々に喜んでもらえた。これと同じように、実在しているからこそのエンターテインメントを都市連動型メタバースで提案できる」(同氏)。逆にバーチャル空間上のイベントを現実の渋谷にも反映できるわけだ。

 KDDIは、メタバースでのイベント開催などを支えるプラットフォームを開発・運営するクラスター(東京・品川)に出資する。ただし都市連動型メタバースにおいてはKDDIが主体的な役割を担っていく。クラスターは現在も力を入れるゲームなどのコンテンツ分野に主軸を置き、KDDIは主に現実の都市と関わるような開発にリソースを当てていくとする。