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 住友生命保険は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を推進している。その活動の中心で、DXを起こすこととその方法について現場で試行錯誤してきた筆者が、DXの勘所を分かりやすく説明する。

 DX企画・推進担当者に必要な知識は「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」であることを繰り返し説明してきた。前回は、住友生命が企画運営している「VitalityDX塾」で、参加者たちがDXで新たなビジネスのアイデアを生み出そうとしている取り組みを紹介した。今回は、候補者を含めDX企画・推進担当者が身に付けるべき3つのリテラシーのうち、データとデジタルに関するものを紹介する。アイデアを発想するにも、最近の技術やトレンドを知らなければ話にならない。

前回記事 マインド改革を目指すワークショップ型DX研修、3年で参加者の意識や行動に変化

DX企画・推進人材は何を知るべきか

 DXは「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」を基にした経営改革のことである。そこで、DX企画・推進人材は「データを活用する力(データリテラシー)」「デジタルを活用する力(デジタルリテラシー)」「ビジネスの仕掛けを活用する力(ビジネスリテラシー)」を蓄える必要がある。

データ、デジタル、ビジネスの仕掛けについてのリテラシー
項目内容
1.データを活用する力・データの取得、活用のための手法
・データビジネス発想、データ活用事例 など
2.デジタルを活用する力・システム開発に関すること
・デジタル技術、デジタルを活用した事例 など
3.ビジネスの仕掛けを活用する力・マーケティング、ビジネス環境や消費者の変化
・ビジネスモデル、DX/デジタルビジネス事例 など

 筆者が自社のDX保険商品を開発していた際、痛感したのが、メンバーと互いの言葉を理解する力だ。同じ方向を向いて仕事をするには、そうしたリテラシーがないと目標を達成するのが厳しくなる。筆者がメンバーと実践して得た、DXの現場で必要な共通言語は以下である。主なものを簡単に説明しよう。

DXに必要なリテラシー1)データを活用する力「データリテラシー」

 データを活用するといっても、全てのDX企画・推進人材に、「データサイエンティストやAIエンジニアといったデータの専門家が持つべき能力」が必要というわけではない。あくまで「データを使ってどのようなビジネスができるのか、データを生かすために最低限知っておくべきことは何か」を理解して使えるというレベルだ。

データ活用で知っておきたい用語例
【データ管理の基本】データ分析、データビジネス、データサイエンス、データガバナンス
【データ活用の基本】データの欠損、クレンジング、データ可視化
【データの収集・蓄積関連】ビッグデータ、データレイク、データウエアハウス、データマート、ETLツール
【データベースの種類、加工ツール、データ構造】RDB、SQL、NoSQL BI、構造化データ、非構造化データ
【データの分析手法】アドホック分析、データマイニング、シミュレーション、データグルーピング、クラスタリング、相関分析、回帰分析、バスケット分析 など

データ分析とデータビジネスを理解する

 「データ分析」とは、商品購入などの取引記録データや属性データなどを使い、ある事象と別の事象の相関関係などをモデル化し、予測などの業務に活用することである。例えば、ECサイトでの「この商品を買っている人は、この商品も買っています」という商品レコメンドなどだ。

 データ分析と並んで重要になる用語が「データビジネス」だ。これは、データを使って新たな収益機会をつくることで、データの商材化といえる。自社の顧客データを分析して、既存商品やサービスの売り上げ向上を目的とするのがデータの活用方法と捉えると、それとは異なるデータの使い方である。

 両者の違いを、ある気象予報サービス提供会社で説明しよう。天気予報の精度を向上させるため行うデータ分析は既存サービスの売り上げ向上を目的としたデータ活用で、1年分の局地的な天気予想データそのものを販売することが、データビジネスである。