全2251文字
PR

 住友生命保険は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を推進している。その活動の中心で、DXを起こすこととその方法について現場で試行錯誤してきた筆者が、DXの勘所を10回にわたり分かりやすく説明する。

 住友生命保険では現在、2018年にローンチしたDX型の健康増進保険「Vitality」の顧客価値向上のための案件を主とした多くのデジタル案件を推進している。同時にビジネス側とシステム側のDX企画・推進人材の育成に力を入れている。

 前回はレガシーシステムを担当している人材を、DX候補人材として発掘するためにアセスメントを行い、データを測定して資質を洗い出すという話をした。今回は、DX候補人材を選んだ後、住友生命が具体的にどのようにDX向けにふさわしい「アタマ」に変革しているのか、現場で実践している育成方法を披露したい。

前回記事 非先端人材からDX人材へシフト、5人のイノベーティブな転身を見る

痛感した「ビジネスに強い人材」の必要性

 住友生命では、システム人材とビジネス人材にビジネス発想力を持ってもらう研修プログラムを「VitalityDX塾」という名で実施している。このように名付けたのは、Vitalityの開発過程でDX人材育成の重要性を強く認識したからだ。この気持ちを忘れないようにして、筆者は塾長としてVitalityDX塾を運営している。この塾では、DXに深い理解と知識を持ち、かつビジネスに強い人材を育成するのが目的である。

 Vitalityの開発時に痛感したが、DXでは、多くの新しい「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」を使ったシステム企画、設計と実装をはじめ、クラウドサービスなどのベンダーやAI(人工知能)サービス、健康サービス企業との接続・連携などが発生する。システム人材はビジネス側の人材と共同で、短期間に契約面、金額面などの交渉を含むビジネスを開発しながらシステムの機能や性能、セキュリティーを実装する作業プロセスを着実にこなす必要がある。

 これらに必要な能力の要素が足りないまま実務でDXやデジタルビジネスのプロジェクトに参加しても、うまく動けない。次第に心が折れていく。これを避けるため、今までエンジニア人材が経験していない「ビジネスに必要な要素」をVitalityDX塾では学べるようにしている。その内容について解説していこう。

研修前に効果を高める「自己学習」

 まず自分で進める学習「自己学習」がある。エンジニアとしてのスキル向上は当然として、まずビジネスの基礎力をつけるのに必要な習慣だからだ。これは、情報処理技術者試験、DX検定、DXビジネス検定などを使って行う。さらに、ワークショップ型研修と組み合わせる自己学習も実施する。「ワークショップとの組み合わせ」は自己学習の効果を高める方法として有効だ。

 例えば、ワークショップでは「DXの定義」や「DXで経営改革をした企業事例」をグループで討議する。そのために事前準備として、「DXの定義や企業事例に関する知識を書籍や雑誌、Web記事などで収集しておくこと」とワークショップ受講者に告知する。

 この場合、単に「DXの定義やDXで経営改革をした企業事例を日ごろからよく勉強しておいてください」と伝えるよりも学習効果が高まる。「締め切りがあるので調べる」「他人よりも深く理解しておきたい」というモチベーションや、「ワークショップで発表できなかったら恥ずかしい」などの心理が働くからだ。

 VitalityDX塾のワークショップでは、このような効果を狙っている。知識習得の自己学習をワークショップの事前準備(事前宿題)やワークショップ開始直前の15分や30分などと時間を決めて、Web記事で集中的に知識を収集してもらうよう取り組んでいる。以下は事前自己学習とワークショップの組み合わせにおける出題例である。

VitalityDX塾の研修に向けた事前自己学習

以下の用語を事前に書籍やWebを使って調べ、特徴、それぞれの用語の違いなどを人に説明できるようにしておいてください。

(1)デジタイゼーション/デジタライゼーション/デジタルトランスフォーメーション

(2)O2O/OMO

(3)リードジェネレーション/リードナーチャリング