住友生命保険は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を推進している。その活動の中心で、DXを起こすこととその方法について現場で試行錯誤してきた筆者が、DXの勘所を分かりやすく説明する。
前回は、住友生命が運営している「VitalityDX塾」を紹介した。システム人材とビジネス人材にビジネス発想力を持ってもらう研修プログラムを定期的に実施している。今回もその続きで、VitalityDX塾の目玉であるワークショップ型研修を紹介しよう。研修の一部の様子を撮影した動画も掲載するので、雰囲気を味わっていただきたい。
前回記事 住友生命の「VitalityDX塾」、ビジネスに強い人材を育てる独自の自己学習とはこれまでの仕事のやり方を変える
DX型の仕事は、「多くの情報を収集」し、「大勢のメンバーで議論」し、「ビジネスやシステムの方向性を考え」、「他人を説得する」などの不定形な仕事が連続的に発生する。このため、エンジニアが今までやっていた仕事のやり方では時間がかかり、良い答えが出ないことが多く発生するものだ。
そこで、これまでの仕事のやり方を棚卸しして、新たな仕事のやり方を身につけることが必要だ。これを「マインドセット(自己意識改革)」や「マインド改革」と呼び、DX企画・推進人材には絶対必要になる。
VitalityDX塾のワークショップ型研修
VitalityDX塾は、ワークショップ型研修を中心に実施している。ワークショップを通して、さまざまな要素を実務に近い形で学ぶことができるからだ。具体的な中身は、多くの参加者による「協議」と「時間を決めて調べる調査」、議論の「発散」「収拾」「まとめ」からプレゼンテーションに向けた「資料作成」「発表」「評価」「気づき」などから成る。
ビジネスマインドを持ったシステム人材へと成長してもらうためには、新しいことに興味を持つ新奇性資質を伸ばすことが必要だ。ビジネスアイデアが次々と湧いてくるような柔らかいアタマになることを目的とした研修メニューを取り込んでいる。

それが2019年6月に開始したVitalityDX塾の「マインドセット研修」で、1日コースと2日コースがある。DXの本質は「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」と定義づけ、この3つの領域に関する理解を深めるため、「DXの定義」「ビジネスモデル理解」「ビジネスの仕掛け理解」そして「ビジネス発想」などをテーマにしている。
1日の中に4回のワークショップがある。上記のテーマで調べ物をしたり、用語を確認したり、グループで議論したりしてみっちり過ごす。
実践型演習では社会課題の解決にフォーカス
VitalityDX塾では、実践型演習としてZoomを使った「継続的ビジネス発想力演習」を行っている。対象者は希望者と業務上DXやデジタルビジネスに携わっている担当者になる。マインドセット研修との違いは、3~4カ月に1回と頻度が多いことと、課題を「実際に発生している社会課題の解決」に設定していることである。以下は、今までの演習で実際に話し合ったテーマである。
(1)豪雪地帯の地方のビジネス活性化
(2)高齢者層の健康を促進して収入も増やす施策
(3)ネットスーパーの価値を高めるビジネスモデル
(4)プロ野球の球団の売り上げを向上させるビジネスモデル
(5)新型コロナ禍で営業できないレストラン、居酒屋を救うビジネスモデル
(6)空き家を生かすビジネスモデル など
これを、5~6人の1チームで、1演習当たり6~7チームで実施する。チームメンバーはランダムに編成される。テーマを与えられてから2週間かけオンライン会議で議論し、アイデアをまとめ、15分のプレゼンテーション資料を作成し、発表する。その発表を基に評価コメントと改善コメントを受ける。
年に3~4回、これまで2年半で8回実施した。2回目までは良いアイデアは少なかったが、3回目くらいからビジネスアイデアの質が高まった。継続すると確実に発想力は向上すると思っている。