住友生命保険は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を推進している。その活動の中心で、DXを起こすこととその方法について現場で試行錯誤してきた筆者が、DXの勘所を分かりやすく説明する。第2シリーズとしてDX実務で感じたこと、役に立つ考え方などを紹介していきたい。
前回は、DX特有の用語があって会話についていけない場合の対策を紹介した。今回はDXに必要不可欠な、外部の知見を取り入れるための方法について説明する。
前回記事 「用語が分からず会話にならない」DXはつらい、新たなスキルを身に付ける癖を持つ筆者がDX関連のセミナーで話すと、そのつながりから質疑応答でよく聞かれることの1つに「どうしたらオープンイノベーション(社外との交流による価値創造)がうまくいくか」というものがある。筆者の経験をベースに、その答えを紹介したい。
DXの手段としてのオープンイノベーション
DXを進めるためには「外部の知見」をうまく活用することが欠かせない。なぜなら、DXのような新しいことをする場合、社内だけの知見では問題解決や新しいアイデアを発想するための素材が不足するからである。特にDXは新しい「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」が必要なので素材は多いほうがいい。
社内だけの場合、素材が不足するだけならよいがもっと大きな弊害がある。過去の成功の踏襲と、慣れ親しんだ仕事の仕方だ。過去からの蓄積があると、成功してきたやり方を踏襲してしまったり、新しいことを誰も知らないため、新しい顧客層、商品、ビジネスモデルの企画を通せなかったりすることが起こるのだ。
結果、社内だけで閉じて考えると新しいビジネスや新しい価値を創造できない状況となりがちだ。この状況を打開するための有用な方法の1つが、新しいものを社外を含めて広く議論できる手段としての「オープンイノベーション」である。
外部から新しいものを「輸入する力」
オープンイノベーションの意義は、社外へ飛び出し、新しいものを「輸入する力」を身に付けることである。なぜなら、価値の高い仕事には、これまでの社内の常識にとらわれない新しい発想やアイデアを社外から持ち込むことが欠かせないからだ。その意味で、DXとオープンイノベーションは相性が良い。
例えばメーカーがD2C(消費者への直販)ビジネスを始める場合、社内の知見だけでは実現が難しい。社外の成功事例、成功する仕事の進め方、頼りになるコンサルタントを紹介してもらうなど、新しいものを輸入する力が必要だ。
社外の人と意見交換しアイデアを出したり、他業態、他国に存在する商品・サービスの情報といった社外知見を集めたり、それを使って商品開発や新サービスを考えたりすると、社内だけでは思いもよらなかった発想を得られることが多い。
オープンイノベーションの活動を「輸入する」ことによって、社外の意見を聞いて視野を広げ、自分のこれまでの常識を捨てて新しいものを積極的に取り入れる行動をするようになる。これを筆者は、住友生命が提供するDX型健康増進保険「Vitality」や他のDXプロジェクトで体感した。では、常識を捨てるとはどういうことか。
「自社での抱え込み」から「プロフィットシェア」へ
Vitalityに取り組む以前は社内だけで議論していることがほとんどだった。その時代は社内独自のノウハウは他社に公開できない競争資産(有形・無形資産)であることが常識で、その前提で仕事をするのが普通だった。
しかし、Vitalityプロジェクトのため海外のパートナー企業と始めたオープンイノベーションで社外担当者と議論するうちに、「社内の資産は社外資産と組み合わせ、社会をより良くするために使うべきだ」「ビジネスモデルを変えて、より大きな市場で顧客と協業他社とで価値やプロフィットをシェアするほうがよい」という考え方に変化した。