全2639文字

 住友生命保険は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を推進している。その活動の中心で、DXを起こすこととその方法について現場で試行錯誤してきた筆者が、DXの勘所を分かりやすく説明する。第2シリーズとしてDX実務で感じたこと、役に立つ考え方などを紹介していきたい。

 前回は、DXでは外部から知見を「輸入」するためのオープンイノベーションが大事であると説明した。今回はIoT(インターネット・オブ・シングズ)とデータの価値をテーマとする。

前回記事 DXに欠かせない「輸入力」、新しいアイデアをもたらすのは外の人

ウエアラブルデバイスからデータが取得できない

 DXを語る上で、IoTは欠かせない。IoTは「モノのインターネット」の意味であり、さまざまな物(モノ)がインターネットに接続され相互に情報を交換することにより、新しい機能を実現するという概念だ。

 筆者が開発に携わってきたDX型健康増進保険「Vitality」では、加入者の歩数や心拍データを自動取得し、ポイント付与やそのポイント数によって分けられる4種類の「Vitalityステータス」(ブルー、ブロンズ、シルバー、ゴールド)を計算する機能がある。このため、常に装着するウエアラブルデバイス(IoT機器)から自動でデータを取得することが必要だった。

 Vitalityの開発担当になるまで、筆者はウエアラブルデバイスを使ったシステムを構築した経験がなかった。このためウエアラブルデバイスから、どのようにデータを取得して、Vitalityシステムが稼働するクラウドサーバーまで送信するのかがよく分からなかった。これは筆者だけでなく、社内のだれもがそうだった。

住友生命が手掛けた新しい保険商品は、ウエアラブルデバイスから自動でデータを取得することが必要だった
住友生命が手掛けた新しい保険商品は、ウエアラブルデバイスから自動でデータを取得することが必要だった
(出所:123RF)
[画像のクリックで拡大表示]

 共同開発する南アフリカのディスカバリー社とのセッションにおいて、ウエアラブルデバイスには複数メーカーがあること(ガーミン、ポラール、フィットビット、スントなどのブランドがある)やウエアラブルデバイスメーカーのデータを集めてデータ中継する業者(アグリゲーター)も世の中には複数あることなどを知った。

 概要は理解したが、詳細はよく分からない。ウエアラブルデバイスメーカーやアグリゲーターは海外企業が多く、メールで問い合わせても、時間がかかったり、返事が来なかったりといった課題があった。このような状態だったので最初のテストではデータがほとんど届かなかった。

 ディスカバリーと共同で、不具合を1つひとつ洗い出し、原因を突きとめ対処する。このような地道なプロジェクト管理が必要だったのだ。筆者たちはデータを十分に顧客価値にすることはできなかった。最初の頃はウエアラブルデバイスからデータを取得してためることで精いっぱいだったのである。

 しかし、これでは不十分だ。それを実感し、データの価値を生かそうと考えるようになったのは、コマツのIoTプラットフォーム事例を知ったからだ。これが筆者にIoTとは、データの取得だけでなく、「データで価値を創造すること」が必要だと教えてくれた。

保険開発の参考にしたコマツのIoT事例

 経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」で2020年にDXグランプリを受賞したコマツの事例を、筆者はよくセミナーなどで取り上げる。筆者がコマツの事例を好むのは、ウエアラブルデバイスというIoT機器で歩数や心拍、睡眠などのデータを取得するVitalityでも参考にできるからだ。