住友生命保険は現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を推進している。その活動の中心で、DXを起こすこととその方法について現場で試行錯誤してきた筆者が、DXの勘所を10回にわたり分かりやすく説明する。
前回はDX企画・推進には目的と手段の正しい関係が必要であることを説明するために、健康弁当の事例を紹介した。そして手段となるデータ活用についてのヒントも提案した。今回は、自社のDXで何をすべきか、自社のビジネスを分解し、バリューを洗い出す考え方を説明したい。
前回記事 DXを弁当ビジネスで考える、データ取得・分析のための7つのヒント筆者はDX関係のセミナーなどを引き受けることが多い。その際に、参加した方から「DXは難しい」「何をすればよいか分からない」「PoC(概念実証)はやるけれど、その後に進まない」などの話を聞くことが多い。
こうした話は「DXで何をやるか」が経営として決まっていない場合に起こる。DXは「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」を使った経営改革のことなので、まず、経営方針を決め、手段に何を使うのかを決めておかないと、現場が何をすべきか分からず混乱する。
これを避けるためには、「何をやるのか」を現場に示すことが必要になる。経営戦略は企業によって異なり、メーカーにはメーカーの、小売りには小売りの戦略がある。同様に卸売業、ネット販売業、サービス業、SNS事業、アパレルなど、企業ごとの経営戦略があるので、DXもそれぞれの企業に存在する。
企業の強み「ビジネスバリュー」を明らかにする
経営戦略を考えるとき、企業の事業をしっかりと把握し、強み・弱みを言語化しておく。企業ごとに事業の価値、すなわちビジネスバリューを洗い出すことを、筆者は「ビジネスバリュー分析」と呼んでいる。これをベースに、データ、デジタル、ビジネスの仕掛けを使い、どのように効率化するのか、どんな顧客価値にするのかを考えるとDXの方向性に迷いがなくなる。
このように、DXを成功させたいなら、まず、自社のビジネスバリューをしっかり分析し、課題や弱い部分を明らかにすること、それをデータ、デジタル、ビジネスの仕掛けで解決すること、このステップで進めることで、手段の目的化を回避できるのだ。
異なる3業種のビジネスモデル
経営戦略のベースになるビジネスモデルには、どの客層にどのような商品を提供するのかを決める「戦略モデル」、どのようなオペレーションかを決める「オペレーションモデル」、どのように収益を上げるのかを決める「収益モデル」があり(※)、どれを採用するか、組み合わせるかは千差万別だ。これを具体的に考えよう。
例えばシェアリングやマッチングは、「客層、販路、商品をどのような戦略とするのか」という「ビジネスの形に関するモデル」なので「戦略モデル」、SPA(製造小売り)やD2C(直販)は、「決まった戦略モデルの中で、どのように商品を作って、どのように客に届けるかのオペレーションに関するモデル」なので「オペレーションモデル」である。
また、サブスクリプションは、「決まった戦略モデル、オペレーションモデルの中での代金の収納に関するモデル」なので「収益モデル」に該当する。筆者が3つのモデルを体系立てるに至ったのは、現場から分かった「DXの成功事例においては3つのモデルの中のどれかが活用されていることが多い」という理由からだ。