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 1つのリージョンを複数の独立したゾーンで構成する冗長構成はさまざまなパブリッククラウドで採用されている。例えば、AWSは「AZ(アベイラビリティーゾーン)」と呼んでおり、「東京リージョン」に4つ、「大阪リージョン」に3つを置く。国産勢も、NECは「東西にある2つのリージョンをそれぞれ複数のゾーンで構成している」という。NTTデータも同様の構成を採用している。

Amazon Web Services(AWS)が採用する「アベイラビリティーゾーン(AZ)」の構成イメージ
Amazon Web Services(AWS)が採用する「アベイラビリティーゾーン(AZ)」の構成イメージ
(出所:アマゾン ウェブ サービス ジャパン)
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 問題は各ゾーン内部の構成だ。AWSは各AZを構成するDCの数を「1つ以上」としており、複数あるとは明言していない。それでもガバメントクラウドに採用されたことから、日本の2リージョンについてはAZが複数のDCで構成されていると推察できる。

 一方、NECやNTTデータは1つのゾーンを単一のDCで構成したため、今回の要件には合わなかったという。同様のベンダーは少なくないとみられる。1つのゾーンに複数のDCを置く構成は、事業の規模が大きくなれば自然とそうなる。しかし隣り合うDCが同じ電源系統で動くなど、耐障害性能を高める効果がない場合もある。

 さくらインターネットの田中社長は「複数DCのゾーン構成を求める意義は薄い。本来は、デジタル庁が障害点をどう回避する冗長構成を取るかを踏まえて、要件を表現すべきだ」と指摘する。大手が取る現状のDCの構成をそのままなぞれば、実質的に既存の大手だけに選択肢が狭まる。

 ゾーンとは異なる概念で独立性を高めた区画を運用するベンダーもある。米Oracle日本法人の日本オラクルによると、各リージョンは1つ以上の「可用性ドメイン」で成り立っている。可用性ドメインは1つまたは複数のDCで構成し、可用性ドメインごとにそれぞれ3つの「フォルト・ドメイン」を備える。

 デジタル庁は、独立性の高い「ゾーン」がどのような要件を備えるかを「複数DC」以外に示していない。本来は、ゾーンは電源系統や基幹網につながる通信回線が独立しているのか、火災被害も想定して建築棟を分けるかどうかなどを明記すべきだろう。

 デジタル庁が本当に必要とする耐障害性や冗長構成を要件で表現できるかが重要となる。

「イレブンナイン」の耐久性はなぜ必要か

 AWSなどの現仕様をそのまま複製したかのような要件も見受けられる。例えば、ストレージの耐障害性能を明記した要件である。

 要件ではアーカイブストレージやオブジェクトストレージに、9が11個並ぶイレブンナイン(99.999999999%)という「耐久性」を求めた。これはファイルまたはオブジェクト(ファイルとそのメタデータ)が1年間に消失する確率が「1000億分の1」であることを意味する。実はこの耐久性は、AWSのオブジェクトストレージ「Amazon S3」の設計と一致する。Google、Microsoftのストレージサービスも設計値として同様にイレブンナインの耐久性をうたっており、米大手3社の現仕様が要件として採用された格好だ。

 調達仕様書に関わったデジタル庁の担当者は、なぜイレブンナインの耐久性が必要かについて、「各要件の根拠についてはコメントできない」とする。耐久性は高いほうが望ましいが、根拠を示すべきではないだろうか。

クラウドが欲しいのか、AIが欲しいのか

 今回の調達では、パブリッククラウドの1つの機能としてAI(要件書では機械学習と表記)も求めた。行政機関向けのセキュリティー基準を認証した「ISMAP」を取得済みのベンダーが10社近くあったのに、応募が3社と低調となった理由の1つとみられる。

 求めたのは、自動翻訳や文章解析、テキストを音声にする「Text to Speech」機能、チャットボット機能など5つの分野と、機械学習の開発環境にわたる。開発環境に関しては、「機械学習の一連の開発ステップを包括的にサポートする、機械学習開発専用の統合開発環境がマネージドサービスとして提供されている」ことを求めている。AIの個別機能を提供しているITベンダーはあるが、開発の統合環境まで含めてすべて提供できているのは、現在はほぼ米IT大手に限られる。

 運用管理ではなく、行政システムで使うならば、行政システムを動かすサーバーとは別に、AIの機能を実装するサーバーを運用して、連携させることもできる。なぜIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の調達に必須かは不明だ。

 デジタル庁の担当者は、あらゆる要件を詰め込んだ今回の調達について「まずは、さまざまな需要に応えられるクラウドという観点で調達を進めた」と話す。今回のような基準とは別の観点でクラウドの調達をすることも検討しているという。今後は用途や目的を限定したクラウドも組み合わせるなど、ガバメントクラウドはいくつかの異なる基準で調達を進める可能性がある。

 ただし主流に据えるクラウドの調達が現状でよいわけではない。デジタル庁は前身の内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の際、AWSでクラウドの経験を積んだほか、AWS日本法人の在職経験者(現在は退職済み)が民間人材としてガバメントクラウドに関わる要職に就くなど、デジタル庁のクラウドへの要件がAWS基準に傾く素地はあった。2022年度の調達はマルチクラウドを実現するためのデジタル庁の仕事ぶりが問われる。

■変更履歴
記事公開当初、「可能性ドメイン」という表現がありましたが、正しくは「可用性ドメイン」です。おわびして訂正いたします。本文は修正済みです。[2021/11/29 15:30]