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 レベル3の移動サービスを日本で初めて社会実装したのが、福井県永平寺町である(図6)。21年3月25日に運行(土日祝日限定)を開始した*6

図6 福井県永平寺町で使用しているレベル3の自動運転車両
図6 福井県永平寺町で使用しているレベル3の自動運転車両
車両の前方に走行経路が見える。(撮影:日経クロステック)
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*6 経済産業省・国土交通省の「高度な自動走行・MaaS等の社会実装に向けた研究開発・実証事業」の中の「専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」(16~20年度)の成果を利用したもの。

 走行経路は、鉄道の廃線跡地(永平寺参ろーど)の南側約2kmの区間(荒谷-志比間)である。現在は歩行者専用道路(ただし、自転車も入れる)としても使われている町道(公道)で、いわゆる限定空間である。同区間には、他の道と交差する箇所も信号機もなく、歩行者や自転車以外は同サービスのために運行している自動運転車両しか入れない。そうした経路を遠隔監視・操作のみで無人運転している。

 最高速度12km/h。道路に埋め込んだRFID(Radio Frequency IDentification)タグから停止指示、速度指示、位置情報を取得し、電磁誘導線をトレースするように自動で走行する。

 遠隔監視者は1人。現在は3台の車両を同時に監視している(図7)。いざというときは基本的にはシステムが車両を自動的に停止させる仕組みだ。システムとしては遠隔監視者が車両を操作することもできるが、現在はほぼ遠隔操作はしていないという。そうした意味では、レベル4相当とみることもできそうだ。緊急時は、システムで車両を停止させるとともに、現場に人を向かわせる。

図7 福井県永平寺町がレベル3の移動サービスに使用している遠隔監視室
図7 福井県永平寺町がレベル3の移動サービスに使用している遠隔監視室
各車両に付けた車両周辺と車内を映す遠隔監視用カメラの映像が、車両別にモニターに表示されている。また、各車両の所在や状態、通信状態などを示す画面も表示されている。(撮影:日経クロステック)
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 使用している自動運転車両は、ヤマハ発動機の電動カート「ランドカー」をベースに改造したものである。具体的には7人乗りの「AR-07」と5人乗りの「AR-05」をベースとする。

 外界監視センサーとしては、車両の衝突回避などを目的としたLiDAR(視野角180度、検出可能距離約50m)、物体認識カメラ(単眼のAIカメラ、視野角45度、検出可能距離約60m)、ステレオカメラ(検出可能距離約10m)を車両の前部に搭載する。加えて、遠隔からの車両周辺の監視用に、車両の前後左右に1つずつ単眼カメラを搭載している。

 物体認識カメラは、歩行者や自転車、動物などを検知するためのものという。歩行者や自転車とすれ違う場合に減速して安全を確保するために利用する。バックミラー付近には、遠隔から車内を監視するためのカメラも1つ設置している。

 このように、日本では、遠隔監視のみの無人運転を見据えた移動サービスや実証実験が数多く展開されている。そして、遠隔監視のみの無人運転によるMaaSの社会実装に向け、着実に前進している。