早ければ2022年度にも社会実装が始まりそうな無人運転MaaS(Mobility as a Service)。だが、社会実装/定着/拡大に向けては、いくつかの課題が残されている。責任の明確化、社会的受容性の確保、レベル4への法整備、運行設計領域(ODD)の拡大に向けた安全性の確保、収益性/採算性の確保などだ。
「(無人運転MaaSの社会実装/定着/拡大に向けた)最大の課題は、事故が発生した場合の責任の明確化だ」。こう指摘するのが、アーサー・ディ・リトル・ジャパン(ADLジャパン、東京・港)マネージャーの立川浩幹氏である。同氏によれば、責任を誰が負うのか、現在も熱い議論が続けられている状況。「法整備されれば、レベル4の(モビリティー)サービスは展開できるようになる。だが、その裏に隠れる責任を整理することが欠かせない」と同氏は語る。
無人運転を社会に受け入れてもらう(社会的受容性の確保)には、無人運転に対する地域やコミュニティーの理解が不可欠である。そのためには、責任の明確化は欠かせない。欧州評議会では、刑事、民事、行政、製造物、倫理上の責任について議論を進めており、責任の明確化には国際標準化が必要であると国際連合(UN)に働きかけを行うとしている。
社会的受容性という面では、「無人で大丈夫なのか?」「暴走しないのか?」といった地域住民の不安を払拭していくことや、無人運転そのものに興味や関心を持ってもらうことも大切である。さらに、技術進化の過渡期における技術の限界を踏まえた地域住民の協力や、不可避な事故に対する自動運転システムの判断への社会的な理解と共通認識なども求められる。
例えば、茨城県境町とBOLDLY(東京・港)が同町で実施している自動運転シャトルを使った移動サービスでは、地域住民の理解と協力により、走行経路における路上駐車が減ってきている(図1)。また、低速の走行となるため、それを理解してくれた地域住民が、自家用車で移動する場合は迂回ルートを利用してくれるというケースも増えてきているという。
「スタイリッシュで未来を想像させる車両のデザインも重要である」。こう語るのが、WILLER(大阪市)でMaaS Business Unit MaaS Mobility Service Division Managerを務める池 あい子氏だ。同社は名鉄バス(名古屋市)などと共同で、名古屋市鶴舞エリアの幹線道路を含む公道で自動運転の実証実験を実施したことは、第3回でも紹介した。その自動運転車両にはデザインが洗練されているとされるフランスNAVYA(ナビヤ)の自動運転シャトルバス「ARMA」を用いている。
しかも、外装デザインには名古屋の三英傑とされる織田信長、豊臣秀吉、徳川家康をイメージしたかぶとの立物(たてもの)と、名鉄バスのラインをあしらい、地域の人々に親しみを感じてもらえるものにしたという(図2)。実際、「デザインに親しみを感じて、乗ってみたいと予約してくる地域住民は多かった」と同氏は明かす。
当然のことだが、レベル4のMaaSの社会実装に向けては、法整備も必要になる。日本政府は、22年度ごろに地域限定での遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスの実現を目指すとしている*1。警察庁は現在、これを実現するために検討を進めている。
焦点になっているのは、従来の「運転者」の存在を前提としない交通ルールの在り方と、自動運転システムがカバーできない事態が発生した場合の安全性担保の方策である。警察庁ではこれらを課題と捉え、道路交通法の改正を視野に検討を進めている。