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 人工知能(AI)によって熟練者の作業を再現しようとする場合、AIに学ばせる熟練者の模範解答(学習データ)の収集が課題となる。マクニカ(横浜市)はこの課題を解決するため、人の脳の活動を見える化する「ブレインテック」に着目した。ベテラン技術者の脳波から効率的にAIの学習データを生成する。国内メーカーと品質検査用途などで実証実験を進めており、2022年にも実用化する見込みだ。

 学習データとしては、例えば不良の有無をラベリングした画像データがある。マクニカが開発した技術を使えば、このラベリング作業にかかる時間を大幅に短縮できる。人が見た結果をマウスやキーボードを使って手入力する時間と比較すると、約10分の1に抑えられるという。

 例えば、傷のある素材の画像を選別するという実証実験では、通常の手入力だと1920枚の画像のラベリングに69分かかったが、脳波を使うと800枚を4.5分でラベリングできた。また、ラベリングの信頼性を高める工夫があり、通常より少ない量の学習データでAIモデルを構築できたという。

見るだけで「家」の画像をラベリング

 21年の終わりが近付きつつある頃、筆者は東京にあるマクニカのオフィスで脳波測定用機器をかぶり、パソコンの画面上に1枚ずつ表示される画像を眺めていた(図1)。動物や植物などの雑多な画像が流れてくる中で意識するのはただ1つ。「家」の画像の枚数を数えることだった。全ての画像を表示し終わった約3分後、ディスプレーには9枚の画像が表示された。その内、7枚は家の画像である(図2)。

図1 脳波を測定しながら画像を見ている様子
図1 脳波を測定しながら画像を見ている様子
雑多な画像が1枚ずつ表示される中、「家」の画像の枚数を頭の中で数える。(出所:日経クロステック)
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図2 筆者の脳波データに基づいたラベリングの結果
図2 筆者の脳波データに基づいたラベリングの結果
雑多な画像の中で筆者が家だと思って見た画像をAIが抽出した。(出所:マクニカ)
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 マクニカは脳科学分野のスタートアップ企業であるイスラエルのInnerEye(インナーアイ)と提携し、同社の AI作成プラットフォーム「Sense I (センスアイ)」を提供している。このSense Iには脳波データを解析してラベリングする機能(これ自体がAI)が組み込まれており、図2は筆者の脳波データに基づいて家の画像を分類した結果である。

 筆者が意識した「家」を、「異常のある製品」というキーワードに置き換えれば、目視検査のラベリングにも適用できる。熟練者による目視検査に匹敵する検査AIを作りたい場合を例に、その構築過程を見てみよう。