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 サイバーエージェントは、AI(人工知能)技術の研究開発組織「AI Lab」において、深層学習に基づいた写実的な人体表現の実現を目的として、CG(コンピューターグラフィックス)研究専門組織「デジタルヒューマン研究センター」を2021年10月に開設した。同組織の技術顧問にはCGの研究分野で国内外から高い評価を受けている、早稲田大学 理工学術院教授の森島繁生氏が就任した。同氏に、同組織での取り組みやデジタルヒューマン研究の最新動向などについて聞いた。(聞き手:内田 泰、東 将大=日経クロステック/日経エレクトロニクス)

早稲田大学 理工学術院教授の森島繁生氏
早稲田大学 理工学術院教授の森島繁生氏
(写真:森島繁生)

今回、サイバーエージェントの「デジタルヒューマン研究センター」の技術顧問に就任された経緯を教えてください。

 最近ではリアルなキャラクターのCGを生成するさまざまな技術がそろってきました。手間さえかければ、リアリティーをいくらでも追求できる時代になりました。

 しかし、新しいキャラクターを導入するたびに毎回長時間をかけてデザインするのは非効率であり、いかに手間をかけずにできるだけ自動的にCGを生成するかが重要だと考えています。なので、私の研究室では以前から、1枚の画像からモデル生成することにこだわっています。例えば、2018年には1枚の自撮り写真から3Dの立体画像を生成したり、顔の形状や光の反射特性(アルベド、スペキュラー、ディスプレースメント)などを再現したりする研究をしてきました。また19年には、全身の1枚の画像から 衣服を着た状態の3D形状の復元と、元の画像に映っていない反対側のテクスチャーを推定する技術を発表しました。そのようなバックグラウンドから、今回、サイバーエージェントの技術顧問に就任することになりました。

 具体的な取り組みについてですが、例えばサイバーエージェントが設立したCyberHuman Productionsが開発した、トラックによる出張対応のスキャンシステム「THE AVATAR TRUCK」では、静止状態での顔形状や反射特性、表面の凹凸は計測できますが、時間変化、つまりその人らしい表情の動的な変化の計測はこれからの研究課題です。

 また最近ではAIを使って動画内の人物の顔を別の人物のものに入れ替える「ディープフェイク」の技術が発達しています。今後は、偽のキャラクターがテレビやYouTubeに登場して悪さをするようなこともまん延する可能性があります。そこで、ディープフェイクの画像を検出して破壊する技術も研究の対象としています。例えば、肖像権がある人物の画像をディープフェイクで処理しようとしたら、そういう画像ができないような仕込みをしておいて破壊するというような技術です。このようにデジタルヒューマンの生成と防御の両面の技術に取り組んでいきます。

デジタルヒューマンの完成度を高めていくと、どのようなことが実現するのでしょうか。

 サイバーエージェントが生業(なりわい)とする広告の世界では、これまではスタジオで収録してオンエアするというテレビ向けのCMが主流でしたが、ネットの時代になってインタラクティブにコンテンツにアクセスできるようになりました。将来、デジタルヒューマンの技術が発展すれば、リアルタイムに反応し、個々のユーザーの好みを反映したキャラクターが登場するようになるかも知れません。

 現在のCG技術では、キャラクターが動き出した途端に、CGであることが分かるレベルで、あたかもリアルな人間のように動かすためには、顔にしわが寄ったり、顔に微妙な陰影ができるなど細かい変化を忠実に再現できるようにならなければいけません。私たちの最終ゴールは、人間としての生気を感じられるキャラクターに仕上げることです。さらに、そのキャラクターをユーザーの好きな視点、つまり自由視点で見られるようになることも重要です。こうしたことを実現できれば、動画コンテンツの視聴率が現在より高まり、ビジネスにプラスに働くでしょう。