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 NHK放送技術研究所は2021年6月に開催した「技研公開2021」で、「シーン記述による360度映像と3次元映像の合成技術」を発表した。これまでの2次元映像とは異なり、3次元空間での情報処理を駆使した没入型の高臨場感メディアを提供するための技術である。開発したテレビ方式研究部主任研究員の青木秀一氏に、同技術の詳細やISO/IECの分科会であるMPEGで進められている関連技術の標準化動向について解説してもらう。(日経エレクトロニクス)

 2次元の映像サービスは、2018年に開始された4K・8K衛星放送で十分高いレベルに達したといえる。4K・8K放送では、画素構造が認知できない程度まで映像が高精細化されているだけでなく、自然な色を再現するための広い色域と輝度のダイナミックレンジの向上と合わせて、それまでのテレビ放送よりも格段に高画質でリアリティーの高い番組を視聴できる。

 しかし、こうした2次元映像サービスでも、視聴者はあらかじめ決められた範囲を決められた視点から見ることになるのは以前と変わっていない。これをさらに進化させ、視聴者が好きな場所から好きな向きの映像を自由に見られると、あたかも別の場所にいるような仮想的な体験ができる。このことから、現実の映像と仮想の映像とを区別なく利用した映像空間内を自由に移動し、視聴者が好きな視点からの全方位映像を楽しむことができる没入型の高臨場感メディアである「イマーシブメディア」の実現に向けた研究開発や標準化が活発化している。

 イマーシブメディアの映像では、一般に3次元空間での情報処理が必要となり、視聴に用いる端末種別や視点の位置などに応じて異なる映像が表示されるなど、従来の2次元映像サービスとは異なる技術が必要になる(図1)。本稿では、NHK放送技術研究所(NHK技研)がイマーシブメディアの実現に向けて開発したシステムとともに、関連技術の標準化動向を紹介する。

図1 2次元の映像サービスとイマーシブメディアの映像の違い
図1 2次元の映像サービスとイマーシブメディアの映像の違い
(図:NHK放送技術研究所)
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