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 実在の人物やその人の動き、位置など空間全体を3次元(3D)データとして丸ごとキャプチャーする「ボリュメトリックキャプチャー」技術への投資や開発が活発化している。まだ発展途上の技術だが、「メタバース」の世界にリアルを持ち込む有力技術の1つとして期待は大きい。国内でも開設が相次いだ撮影スタジオなどの取材を基に、技術やサービスの現状、課題解決に向けた技術開発、将来展望を紹介する。

 「XR(Extended Reality)へのパラダイムシフトにおける3次元(3D)コンテンツの目玉であり、今後の付加価値の源泉となる」。NTTドコモ ビジネスクリエーション部XR推進室長の岩村幹生氏は、ボリュメトリック映像への期待をこう表現する。

 XRは、現実世界と仮想世界を融合させるVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術の総称。

 同社は2021年1月、ボリュメトリック映像を含むXRコンテンツの制作スタジオ「docomo XR Studio」の稼働を開始した。前年の20年には、ソニーグループやキヤノン、ソフトバンクも相次いで専用スタジオを開設している(図1)。

図1 ボリュメトリックキャプチャースタジオの例
図1 ボリュメトリックキャプチャースタジオの例
キヤノンとソニーはハイエンドタイプ。キャプチャーできる空間が広く、4Kカメラの台数もそれぞれ100台、80台以上と多い。ソフトバンクとNTTドコモはそれよりもカメラ台数を減らしてコストを抑えている。ソフトバンクは4Kカメラが30台、NTTドコモは深度センサー(測距用の赤外線カメラ)を併用する方式で、4Kカメラ8台、2.5K(500万画素)カメラ8台を使用。カメラの台数やレイアウトにはそれぞれノウハウがある。(写真:日経クロステック)
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 ボリュメトリックキャプチャー技術自体は以前からあったが、なぜ今のタイミングで専用スタジオの開設が集中したのか。ソニーグループ事業開発プラットフォーム新規事業化推進部門事業化推進部統括部長の小松正茂氏は、「コンピューティングやGPUなど技術の進化で、視聴に耐える品質になった」と分析する。

 いずれのスタジオも撮影スペース(キャプチャー空間)の周囲にカメラを数十台以上配置して被写体を動画で撮影し、リアルな3DのCG(コンピューターグラフィックス)モデルを短時間で制作する。撮影対象をその動きまで含めて丸ごとキャプチャーするのだ。できあがった3DCGは頭上や足元を含め、ユーザーが好きな視点から見ることができる。対象を複数のカメラで同時に撮影して、ユーザーが見たい視点からの映像のみを配信する自由視点映像サービスもあるが、それとは異なる。

 「通常のCGではリアルの完全な再現は難しい。例えば、服のひらひら感や顔に寄ったしわなど細部を再現するには膨大なコストや手間がかかる。ボリュメトリックキャプチャーなら、ありのままをすぐに3Dモデル化できる」(小松氏)

 このため、映像クリエーターはこれまでにないまったく新しい作品を作ることができる。そして、今、世界の多くの企業が注目しているインターネット上の仮想世界「メタバース」に“リアル”を持ち込む有用なツールになる。「メタバースというと仮想的なものを想像しがちだが、これまではその空間にリアルなものを投入するすべがなかったためだ。ボリュメトリックキャプチャーはまさにそのための手段で、こうした技術が普及することでメタバースが目指す仮想世界とリアル世界の融合に近づいていく」(ソフトバンクのスタジオを運営するリアライズ・モバイル・コミュニケーションズ取締役の勝本淳之氏)

 実際にボリュメトリックキャプチャーを使った作品などに携わっている映像クリエーターである、スタジオブロス 映像開発部リアルタイム3DCGディレクターの田村耕一郎氏は「ボリュメトリックキャプチャーで3Dかつ時間軸を伴う映像を記録できるようになったことは、今後、人間の体験の質や考え方を変えていく可能性がある」とインパクトを語る(インタビューを参照)。