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 実在の人物やその人の動き、位置など空間全体を3次元(3D)データとして丸ごとキャプチャーする「ボリュメトリックキャプチャー」技術が、メタバースの世界に現実を持ち込む有力な手段として注目を集めている。ただし、現在はまだ黎明(れいめい)期。普及に向けて解決すべき課題も多い。課題解決に向けた技術開発を追った。

 「通常ならクレーンを使って撮影しなければならないような映像を簡単に作れたりするし、アニメのカメラワークを実写で実現できたりする」(ソニーグループ事業開発プラットフォーム新規事業化推進部門事業化推進部統括部長の小松正茂氏)

 「将来はオンライン会議で話している人の3DのCGをその場でつくれるようになるだろう」(早稲田大学 理工学術院教授の森島繁生氏)

 現実空間の立体映像を生成できるボリュメトリックキャプチャー技術に対する期待は大きい(図1)。今、世界中の多くの企業が熱視線を向けるインターネット上の仮想空間である「メタバース」がビジネスの場として大きく広がれば、そこに現実を持ち込む手段としてこの技術は不可欠なものになっていくだろう。

図1 メタバースの世界にリアルなCGが入り込む
図1 メタバースの世界にリアルなCGが入り込む
米Meta(メタ、旧Facebook)が自社イベント「Facebook Connect 2021」の基調講演で紹介したメタバースで多くの人が交流するイメージ。自分のCGなどで参加する人もいれば、ボリュメトリック映像のリアルなCGで参加する人もいる。(出所:公式動画をキャプチャーしたもの)
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 しかし、現段階では実用化の一歩を踏み出したばかりで、普及に向けた課題は多い。一口にボリュメトリック映像といっても、専用スタジオで撮影するプロユースのものからベンチャー企業が開発しているお手軽なものまで幅が広いが、ここでは品質重視の映像における課題と対策技術などを解説する。

ビューティーショットに耐えられない

 図2は専用スタジオで撮影するような高品質のボリュメトリック映像の、現状の課題と改善策をまとめたものだ。まず、何といっても設備が大掛かりでコストがかかる。例えば、キヤノンのスタジオは4Kカメラを100台以上、ソニーグループでは80台以上を配置しており、「設備投資額は数億円以上」(業界関係者)とみられる。

図2 ボリュメトリックキャプチャー技術の主な課題
図2 ボリュメトリックキャプチャー技術の主な課題
主に専用スタジオで高品質の映像を制作する際の課題を挙げた。(図:日経クロステック)
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 ソニーの小松氏によれば「撮影したデータのビットレートはカメラ1台当たり20M~30Mbps(ビット/秒)」。つまり、30Mbpsで80台だとすると2.4Gbpsにもなる。このようにGbps級のデータを伝送してCGモデルをレンダリングしなければならない。だから、専用スタジオには高速のネットワークと、ハイエンドのGPUを搭載したサーバーが数十台以上配備され、並列処理をしている(図3)。また大容量のストレージも必要になる。

図3 ソフトバンクのスタジオのサーバールーム
図3 ソフトバンクのスタジオのサーバールーム
ボリュメトリック映像の生成には、高いコンピューティング能力が必要になる。写真はソフトバンクのスタジオ内に設置された100台のサーバーの一部。ハイスペックなGPUを搭載しているという。(写真:日経クロステック)
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 もちろん、カメラの台数を減らせば低コスト化が可能だが、専用スタジオにおいては、それは現実的でない。CGモデルの品質はカメラの台数やその解像度などに大きく左右されるが、現状ではまだ十分な品質を確保できていないという。「3DCGの映像は、どうしても通常の2D映像と比較されてしまう。顔の大写しなど『ビューティーショット』にはまだ耐えられるレベルではない」(小松氏)

 品質を落とさずに、いかにデータ容量を削減していくのか。一方で、カメラの台数を大幅に増やすことなく、いかに品質を高めていくのか。この真逆の課題に向き合い、両者のバランスをうまく取りながら改善していくことが、開発の現場に求められている。