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 世界中の企業がにわかに強化を打ち出している、インターネット上の仮想空間「メタバース」。その発展の鍵を握るのが、現実世界を仮想空間に持ち込むための映像技術である。それは映像技術の進化の主軸が、これまでの解像度を中心とする高品質化から、3次元空間での没入感を提供する「イマーシブメディア」に移行することを意味する。

 「実世界と仮想空間を融合し、世界中のファンがチームを身近に感じることができる魅力的なコンテンツの開発や新たなファンコミュニティーの実現に向けた実証実験を行う」(ソニーグループ)

 ソニーと英プロサッカーの強豪、Manchester City Football Club(マンチェスター・シティFC)は2021年11月30日、次世代のオンラインファンコミュニティーの実現とファンエンゲージメントの最大化を目指すための提携を発表した(図1)。最近ではもっぱら「メタバース」と呼ばれる仮想空間に対するソニーの新たな取り組みの1つである。

図1 メタバースに世界大手企業が投資を加速
図1 メタバースに世界大手企業が投資を加速
米Facebook(旧)は社名を「Meta(正式にはMeta Platforms)」に変更し、メタバースに注力することを21年10月に宣言(a)。ソニーグループは11月に「Manchester City FC」とメタバースを活用したファンコミュニティーに実証実験を行うことを発表(b)。米Microsoftは11月にビデオ会議ツールの「Microsoft Teams」を強化し、メタバース上でのコラボレーションを可能にする「Mesh for Microsoft Teams」を発表(c)。米NVIDIAはメタバース上で共同作業を行うための自社プラットフォーム「Omniverse」の強化を加速している(d)。(図:各社)
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 具体的には同クラブのホームスタジアムをメタバース上にリアルに再現し、世界中のファンが自身のアバターで交流できたり、エンゲージメントを高めるためのサービスを利用できたりするという。

 この実験の最大の注目点は、冒頭のコメントに「実世界と仮想空間の融合」とあるように、ソニーがこれまで実際にプロスポーツの現場に提供してきたトラッキングシステム*1などの技術を活用することだ(図2)。こうした“リアルの価値”を仮想空間に持ち込み、コミュニティーやビジネスを拡大していくことが目標である。

*1 ソニーのグループ会社である英Hawk-Eye Innovations(ホークアイ イノベーションズ)のカメラを使った、スポーツ解析用の「エレクトロニックパフォーマンストラッキングシステム(EPTS)」を指す。
図2 トラッキングシステムを活用してファンを魅了する新手法を開発へ
図2 トラッキングシステムを活用してファンを魅了する新手法を開発へ
ソニーのグループ会社である英Hawk-Eye Innovations(ホークアイ イノベーションズ)のカメラを使った、スポーツ解析用の「エレクトロニックパフォーマンストラッキングシステム(EPTS)」を活用して世界中のスポーツファンを魅了する新たな方法を模索するという。(図:ソニーグループ)
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キーワードはリアル

 「メタバースはインターネットの新しいチャプター(新章)だ」――。米Facebook(フェイスブック、旧名)の共同創業者でCEO(最高経営責任者)のMark Zuckerberg氏は21年10月28日、社名を「Meta(メタ、正式な社名はMeta Platforms)」に変更し、メタバースにリソースを集中することを明らかにした。このほかにも米Microsoft(マイクロソフト)や米NVIDIA(エヌビディア)などがメタバース関連事業を強化したり、米Walt Disney(ウォルト・ディズニー)などが参入を表明したりするなど、世界中でメタバースへの投資や開発がにわかに盛り上がっている。

 一方で、06~07年ごろにビジネス界でも一時的に盛り上がった仮想空間「セカンドライフ」(米Linden Labが開発・運営)の再来ではないかという冷めた見方もある。確かにメタバースがどの程度の市場の広がりを見せるかは不透明ではあるものの、当時との決定的な違いが2つある。

 1つは技術の進化によって現実世界との境界が薄れ、“リアルの価値”を仮想空間に持ち込むことができるようになってきた点だ。例えば、昨今では実際の街をデジタル化して仮想空間に「デジタルツイン」を構築し、スマートフォン(スマホ)でもアクセスできる。07年はちょうど初代iPhoneが発売された年で、現在のように誰もがすぐに仮想空間にアクセスできる環境はなかった。

 もう1つは、昨今のコロナ禍によって「Zoom」などのオンライン会議がニッチな存在から一気に仕事で不可欠なツールになったように、遠隔でのコミュニケーションや共同作業が当たり前の存在になった点だ。メタバースに対する一般の人の敷居が一気に下がったのだ。こうした技術の進化と環境の大きな変化が、メタバース推進派が急増する要因となっている。