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バーチャルプロダクションは黎明期から成長期へと歩みを進めている。撮影スタジオは世界で欧米を中心に80カ所以上に増加している中、国内でもソニーPCLやサイバーエージェント、バンダイナムコエンターテインメントなど、LEDウオールを用いた自社スタジオが急増している。用途は映画撮影だけでなく、CMやプロモーション映像の撮影、イベント配信への活用などさまざまだ。

 バーチャルプロダクションに特に力を入れているのが、ソニーPCLである。20年に実用化を進め、21年4月には東京都世田谷区の東宝スタジオ内に大掛かりな撮影スタジオを設けて映画やCM撮影を続けてきた(図1)。21年度内には、常設の「清澄白河 BASE」も東京都江東区に開設する予定だ。

(a)アパレルのCM撮影の様子
(a)アパレルのCM撮影の様子
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(b)映画撮影の様子
(b)映画撮影の様子
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図1 ソニーPCLはバーチャル
ソニーPCLが東宝スタジオ内に設けたスタジオでは、これまでにアパレルのCMや自動車のCM、ソニーのカメラ新製品のCMなどを撮影した(a)。このほか、複数のシーンを短期間で撮影できるとして、短編のオムニバス映画『DIVOC-12』の中の1編「ユメミの半生」の撮影にも利用されている(b)。(写真:(a)は日経クロステック、(b)はソニーPCL)

 ソニーPCLのスタジオで撮影した映画では、モデリングソフトで作られたフルCGや、現実の物体や建造物などをLiDAR(レーザースキャナー)などでスキャンした点群データ、複数の平面写真から3Dモデルを作る「フォトグラメトリー」手法によるCGなど、多種多様な背景を用いた(図2)。

(a)架空の風景や建物をフルCGで作成した撮影用の背景
(a)架空の風景や建物をフルCGで作成した撮影用の背景
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(b)実際の建物を3Dスキャンして作られた撮影用の背景
(b)実際の建物を3Dスキャンして作られた撮影用の背景
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図2 LEDウオールに表示する背景はCGから実写まで様々
ソニーPCLのバーチャルプロダクションを用いて撮影された、映画『DIVOC-12』の中の1編「ユメミの半生」では、フルCGで作成した架空の背景映像(a)や、点群スキャンやフォトグラメトリーなどで実写からCG化した背景映像(b)などを用いた。(写真:ソニーPCL)

 実際の建物では現場が狭くて撮影機材が入らなかったり、壁などが撮影したい構図を邪魔したりする問題が発生するが、CG化すればそれらの制約を受けなくなる。

広告映像の制作をLEDで

 サイバーエージェントは、バーチャルプロダクションをマーケティングやプロモーションの映像制作に用いている。20年11月、同社子会社のCyberHuman Productionsは、LEDウオールを用いた撮影スタジオ「LED STUDIO」を開設した。

 用途は、CMやプロモーション動画の撮影、カンファレンスのオンライン配信などである。例えば、プロサッカーチーム「FC町田ゼルビア」のCM撮影では、複数シーンの撮影でCG背景とLED STUDIOを活用した(図3)。開設から約1年間で、LED STUDIOを用いたプロモーション制作はおよそ25件あったという。

(a)宇宙空間を模したシーンの撮影風景(左、中央)と完成後のCM映像(右)
(a)宇宙空間を模したシーンの撮影風景(左、中央)と完成後のCM映像(右)
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(b)リビングでの観戦シーンの撮影風景(左)と完成後のCM映像(右)
(b)リビングでの観戦シーンの撮影風景(左)と完成後のCM映像(右)
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図3 サイバーエージェントは広告映像制作にLEDウオールを利用
サイバーエージェント子会社CyberHuman Productionsの「LED STUDIO」は、主に広告映像の撮影に利用されている。例えば、プロサッカーチーム「FC町田ゼルビア」のサポーター向けアプリ「ZEL-STA」のプロモーション映像では、宇宙空間からアプリをアピールするシーン(a)や、リビングでの観戦シーン(b)など、映像内の様々なシーンをCG背景とLEDウオールを用いて撮影した。(写真:サイバーエージェント)

映像制作×AIで広告効果を予測

 バーチャルプロダクションのメリットは時間と場所の制約からの解放だけではない。撮影現場でリアルタイムに所望の映像を作れる利点を生かした、一歩先を行く取り組みが始まっている。

 例えばサイバーエージェントは、LED STUDIOでの映像撮影だけでなく、AI(人工知能)と組み合わせた広告効果の予測サービス「極予測LED」を提供している。バーチャル撮影と広告効果の予測を何度も繰り返しながら、より効果の高い広告素材を制作できるようにするサービスである(図4)。21年1月の提供開始から約1年で、極予測LEDサービスの利用件数は50件以上に上るという注4)

図4 AIを用いて広告映像制作を素早く高精度に
図4 AIを用いて広告映像制作を素早く高精度に
サイバーエージェントはLED STUDIOと極予測AIを組み合わせた「極予測LED」サービスを提供している。撮影した映像をその場でAIで効果予測し、背景や構図を変更しながら、よりスコアの高い広告映像を制作する。(図:サイバーエージェントの資料を基に日経クロステックが作成)
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注1)極予測LEDの利用件数の内、LEDウオールを利用しているのは13件程度で、その他は100インチのLEDディスプレーを用いているという。「被写体に人物がおらず物撮りだけの場合、比較的小型なディスプレーを用いている。被写体が小さいと近距離で拡大して撮ることが多いため、ディスプレーのほうが適している場合もある」(サイバーエージェントの担当者)。

 サイバーエージェントは以前から、動画や静止画の広告素材を基にディープラーニングを用いて広告効果を予測するサービス「極予測AI」を提供してきた。従来は、クロマキー合成などでの撮影後に後工程の映像処理を施した完成画像を入力して広告効果を予測していたため、広告効果のスコアが悪い場合に撮り直しをするには時間と手間とコストが必要だった。バーチャルプロダクションならその場で完成画像を出力できるので、撮影中にスコアを確認でき、リアルタイムでカメラや演者の位置、構図、背景などを広告効果が最適になるように変更できる。