寝たきりだった高齢者が自分の足で歩けるようになった――。こうした例は、エビデンス(根拠)を重視したリハビリを実践するポラリス(兵庫県宝塚市)の通所介護(デイサービス)施設でよくあることだという。腰の骨を折って3カ月入院した後、寝たきりの状態となった高齢男性もその一人。男性の家族は一時、24時間の介護を受ける特別養護老人ホームへの入居も覚悟した。しかし男性はリハビリを経て、自分の足で歩行できるようになった。
ポラリスが重視するのは論文やデータなどの根拠に基づいた「科学的介護」である。例えば従来のリハビリでは「再び歩くためには利用者の筋力を鍛えることが重要」とされてきた。しかし最新の脳科学では「歩行のような複雑な動作をマスターするには、その動作を繰り返し体に覚えさせて神経回路を再構築することが重要とされている」とポラリスの代表取締役で医師の森剛士氏は説明する。
リハビリを受ける前の高齢者は体力が低下している上に筋肉を思うように動かせない状態だ。意欲や自信を喪失していることも多い。そこで低負荷の運動を繰り返すことで活動量を増やして体力をつけながら、再び歩いて生活できるようにトレーニングする。
神経回路を再構築するには、日常動作における筋肉の動かし方を再び学習する必要がある。6種類のトレーニングマシンで反復運動を実施し、歩行に必要な足の曲げ伸ばしをスムーズにしたり、洗濯物など肩より上にあるものを手に取る際の動作を円滑にしたりする。
特に歩くためのトレーニングでは、先の6種類とは別の専用マシンを利用して歩行を安定させる。天井からつり下げたベルトを利用者の体に固定し、転倒を避けながら歩く動作に慣れていく。体が動き始めると高齢者のリハビリへのモチベーションが向上するため、個人ごとの目標を立てて達成感が得られるようにする。こうした手法でポラリスは、介護が必要だった600人ほどの利用者を介護保険によるサービスから「卒業」させてきたという。