カインズやワークマン、ベイシアらを束ねる流通の巨人、ベイシアグループ。2021年2月期に初めて売上高1兆円を突破し、さらなる高みを目指して現在力を注ぐのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。グループ各社をとがらせる「ハリネズミ経営」を標榜し、DX戦略の舵(かじ)取りを担うプロCDO(最高デジタル責任者)らを相次ぎ招き入れている。業績拡大の裏で虎視眈々(たんたん)と進めてきたDXへの足場作り――。ベイシアグループDXの今に迫った。
流通DXのトップランナー、ベイシアグループの全貌(1)より続くベイシアグループにおいて最大の売り上げを誇り、DX(デジタルトランスフォーメーション)の筆頭でもあるカインズ。ホームセンター事業を手掛ける同社は、SPA(製造小売り)化やIT小売業への変貌など、時代の流れに合わせてグループの先陣を切って変革を続けてきた。同社会長であり、ベイシアグループ全体の舵(かじ)取りを担う土屋裕雅氏は「グループで何か新しいことにチャレンジする際に、真っ先に取り組むのがカインズだ」と話す。
「こんなに面白い環境はない」
土屋会長と高家正行社長のもと、同社のDX戦略をリードするのは池照直樹執行役員CDO(最高デジタル責任者)兼CMO(最高マーケティング責任者)兼デジタル戦略本部長だ。日本オラクルや米マイクロソフトのグローバル開発チーム、ベンチャー企業の社長などを経て2019年にカインズに入社した。
2016年から顧問としてカインズのDX戦略に携わるようになり、土屋会長に口説かれ同社に入社。池照氏は「カインズは経営陣がデジタルの重要性を理解し、本気で競争優位の武器にしようとしている。こんなに面白い環境はない」と話す。
カインズは2018年に土屋会長が「IT小売業宣言」をぶち上げ、2019年にデジタル戦略本部を立ち上げて以降「システム開発の内製化」に大きく舵を切った。「デジタルで競争優位を築くのであればITベンダーへの丸投げでは勝てない。当社が内製化に向かうのは必然だった」と池照氏は語る。
もともと同社のデジタル部隊はEC(電子商取引)担当が数人いる程度だったが、東京・表参道に拠点を設けたり、新たな給与体系を設けたりするなどしてITエンジニアを積極的に中途採用。グループ企業からの異動も含めて現在は180人超にまで拡大した。
インドIT最大手と提携しカインズ専用の開発部隊を立ち上げ
2021年9月にはインドIT最大手タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)と提携し、インドのTCS敷地内でカインズ専用の開発部隊を設ける取り組みを開始。カインズのデジタル部隊を2024年度(2025年2月期)までに430人規模にする計画で、そのうち130人程度をインド拠点のエンジニアにする方針という。「インドチームはカインズのデジタル戦略本部の一員であり、単なるオフショアへの開発委託とは異なる。スクラムチームに入ってもらい密にコミュニケーションを取っている」(池照氏)。