カインズやワークマン、ベイシアらを束ねる流通の巨人、ベイシアグループ。2021年2月期に初めて売上高1兆円を突破し、さらなる高みを目指して現在力を注ぐのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。グループ各社をとがらせる「ハリネズミ経営」を標榜し、DX戦略の舵(かじ)取りを担うプロCDO(最高デジタル責任者)らを相次ぎ招き入れている。業績拡大の裏で虎視眈々(たんたん)と進めてきたDXへの足場作り――。ベイシアグループDXの今に迫った。
流通DXのトップランナー、ベイシアグループの全貌(2)より続くホームセンターのカインズが「積極的な長男」であれば、スーパーのベイシアは「控えめな次男」。メディア露出が多いカインズに比べ、どちらかというと控えめとされていたベイシアはグループの中でこう呼ばれることがある。
ただその同社は今、デジタルを駆使した施策で劇的に変わりつつある。

同社のデジタル戦略をリードするのは、2020年10月に入社した亀山博史マーケティング統括本部本部長デジタル開発本部本部長だ。亀山氏は米国で経営学修士(MBA)を取得後、コンサルティングファームに勤めたのち、アマゾンジャパンの化粧品部門の責任者やスターバックスコーヒージャパンのテクノロジー部門の責任者などを歴任。スターバックスコーヒージャパンでは顧客向けのロイヤルティープログラムやモバイルオーダーの開発、バックエンド業務系システムの改善など同社のデジタル・IT戦略をリードしてきた実績を持つプロCDO・CIO(最高情報責任者)だ。
ITエンジニアを採用し内製部隊を立ち上げへ
亀山氏は、カインズの会長でありベイシアグループの実質的なトップである土屋裕雅氏に見込まれ、ベイシアに招かれた。土屋会長はベイシアをカインズに次ぐデジタル先進企業に押し上げる計画で、その重要な舵取りを亀山氏に託した。
亀山氏は「土屋会長と面会した際に、デジタル技術を本気で武器にしようとしている国内でも数少ない事業会社と感じた。(ベイシアには)魅力的な商品と実店舗という強みがあり、デジタル技術を使えばそれをさらに強くできる。やりがいのあるオファーだった」と入社の経緯を語る。
それまでベイシアが本部長クラスを外部から採用したことはほとんどなかったという。亀山氏の入社は「デジタル戦略に力を入れるとの土屋会長やベイシア橋本浩英社長の本気度が社内に伝わるきっかけになった」(ベイシア)。デジタル戦略のプロである亀山氏にマーケティング部門のトップも兼任させたのは、紙のチラシによる販促からデジタルマーケティングに切り替えるという、橋本社長の確固たる決意の表れでもある。
亀山氏は入社後、真っ先にデジタル施策を内製できる組織づくりを進めた。システム開発をITベンダーに依存する体制から脱却し、デジタル施策の「手の内化」を進める狙いだ。「スピードが求められるデジタル施策において、開発をITベンダーに依存している状況は望ましくない」(亀山氏)との考えだ。
ITエンジニアを採用するために、新たな人事制度を設けた。多くのエンジニアが首都圏で働いていることを考慮し、ベイシアグループの東京オフィスでの勤務やフルリモート勤務を可能にしたり、ジョブ型にして給与水準を変えたりと従来とは全く異なる人事制度を用意した。