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 カインズやワークマン、ベイシアらを束ねる流通の巨人、ベイシアグループ。2021年2月期に初めて売上高1兆円を突破し、さらなる高みを目指して現在力を注ぐのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。グループ各社をとがらせる「ハリネズミ経営」を標榜し、DX戦略の舵(かじ)取りを担うプロCDO(最高デジタル責任者)らを相次ぎ招き入れている。業績拡大の裏で虎視眈々(たんたん)と進めてきたDXへの足場作り――。ベイシアグループDXの今に迫った。

流通DXのトップランナー、ベイシアグループの全貌(3)より続く

 「低価格帯の牛革手袋を置いていない。これが機会損失になっているようです」。ワークマンが展開するアウトドア、スポーツ、レインウエアの専門店「ワークマンプラス」の蒲田矢口渡店(東京・大田)。同店に足を運んだ、ワークマンの塩見俊民スーパーバイズ部東京地区チーフスーパーバイザーはノートパソコンを片手に、佐久間雄佑店長へ品ぞろえの問題を指摘した。

スーパーバイザーがデータ分析に基づいた提案で店長をサポートする
スーパーバイザーがデータ分析に基づいた提案で店長をサポートする
(撮影:日経クロステック)
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 200~300円台で買える低価格帯の革手袋は、溶接や産業廃棄物処理といった厳しい環境での現場作業に欠かせない。塩見チーフスーパーバイザーがワークマンのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの1つ「機会損失SKU分析」で調べ、東京地区で売れているが蒲田矢口渡店では取り扱いがないことを発見。2021年7月に取り扱いを始めたところ、すぐ安定した販売につながり、固定客の獲得に貢献したという。

 ワークマンはスーパーバイザーがBIツールを駆使して、店舗の品ぞろえや最適な発注量の見極めを支援する。4種類ほどの分析のルーティーンを週次で実施し、店長と相談しながら売り場を改善していく。

 蒲田矢口渡店ではほかにも、2021年10月に金額ベースで在庫が一定期間にどれだけ入れ替わったかを分析し、カジュアルウエアの回転が予算比で遅れているのをいち早く見つけ、陳列や発注量の調整により改善したという。

 蒲田矢口渡店は佐久間店長がエネルギー関連の営業職から脱サラし、フランチャイズで2021年3月に開店した。開店直後はカンに頼って売れ筋を多く発注してしまい、限られたバックヤードに他商品の在庫を置けなくなるといった失敗もあった。しかしデータに基づくスーパーバイザーのサポートで「安心して店舗運営ができている」(佐久間店長)。

 ワークマンは2015年3月期から2021年3月期で既存店平均年商を9489万円から1億6025万円に6年連続で伸ばし続け、チェーン店舗の契約更新率は99%(定年退職を除く)を誇る。土屋哲雄専務はその背景の1つとしてデータを活用した店舗支援を挙げ、「100年続く競争優位を築くため、普通の社員がデータを使いこなせる凡人経営を進めてきた」と話す。